地方創生の取り組みの中では、稼ぐ地域をつくる動きや、移住施策や、関係人口を増やすような取り組みが話題の中心になりがちですが、今注目度が高まっているのが「高校魅力化」です。

次期地方創生戦略においても重要であると位置づけられており、全国的に取り組みが広まってきました。モデルとなっているのは、先進的に実施してきた島根県での取り組みです。取り組みの振り返りによって、Uターンの増加をはじめ、地域の経済や社会にとって有効な取り組みであることもわかってきました。

島根から始まったソーシャルイノベーション。「高校魅力化」とは何か

「高校魅力化」のスタートは、2006年のこと。人口約2400人の島根県・海士町で、過疎に悩む島を舞台に、学校を「魅力化する」取り組みが始まりました。学校を核にした人づくり、地域づくりを掲げ、島唯一の高校、県立隠岐島前(どうぜん)高校に地域起業家的人材を育成する新コースを設置したり、地域の人々と協働して学んでいく環境の整備を実現。学校と地域が連携した公立の塾の立ち上げや、「島留学」制度も整備などが行われました。

この高校の魅力化の取り組みが評価され、島根県全域、そして日本全国に広まっていく流れができています。

2019年11月に発表された影響調査が驚きを持って迎えられたのも記憶に新しいでしょう。調査の中では、高校魅力化が社会・経済効果に結びついてることが数字とともに示されました。中でも注目されたのが下記。

・高校魅力化により地域の総人口は5%超増加(2017年)。
・高校魅力化により地域の消費額は、3億円程度増加(2017年)し、歳入も1.5億円程度の増加(同)。
・高校魅力化に伴う町村の財政負担を加味しても、3,000~4,000万円程度のプラス効果。(高校魅力化に伴う町村の負担額の約1.8倍の歳入増加)

高校魅力化が、地域の人口増に寄与し、地域経済にも好影響を与えることが示されています。

関係人口・Uターンの増加につながる実績

高校魅力化は、全国に広がり始めており、今後もその流れは続くと思われます。高校魅力化の基本は、教育のブランド化=地域留学の促進と、地域の担い手育成=地域課題解決型学習の導入です。

「地域留学」と呼ばれる県外生徒募集をおこなう公立高校は全国で313校(2018年9月時点)にのぼり、教育移住や地域留学生の保護者の地方移住や、ふるさと納税の増加も認められています。

高校生の地域課題解決型学習による地方創生の担い手育成に関しては、直接的な地域活性化に結びついていることはもちろん、高校生と関わることによる地域の大人の人材教育にも寄与していると報告されています。長期的な視点で見れば、地域活性化を担う人材を、地域が自前で育成することになり、地域の自立的な地方創生に結びつくと期待されています。

関係人口やUターンの増加という観点からも、高校時代に加え、卒業後の地域での活動の機会や、継続して関わる機会を設けることで、Uターン率が向上しており、Uターンせずとも、ふるさと納税などで地域と関わり続ける関係人口化が効果として認められています。例えば海士町では、Uターン者の割合が、魅力化に取り組む前後で、15.2%(2004年〜2008年の平均)から、24.9%(2011年〜2015年の平均)に増加しています。

高校を卒業し、地域外に出る前に地域とのつながりを作り、出た後もつながり維持する仕組みが効果的に機能していることがわかります。

全国に広がる高校を核とした地域活性化

このように高校魅力化は、学校に限った話ではありません。高校魅力化とは、学校を核とした官民協働の地方創生プロジェクトだといえます。重要なのは、地域内外の資源をつなげ、活用し、ひとづくりにつながる活動としていくことだとし、先進県である島根県での取り組みをもとにまとめられた「高校を核としたひとづくりと地域活性化、新しい人の流れの循環の基盤となる学校と地域の協働組織(コンソーシアム)の構築・育成の推進」の中でも提言されています。

居住している地域に大学がないという理由等で、地域外に転出する事例は全国で広く見られることでしょう。高校魅力化がすすめる、高校生の段階で地域との関係性を構築し、そこから一歩進んで、高校生が地域に関与する機会を設け、卒業後も関わり続ける仕組みを構築するということは、進学や就職等の中で、地域と関わる選択肢を増やしていくということにつながるでしょう。

高校魅力化が持続可能な地域づくりの重要な位置にあることを認識し、それぞれの地域で、独自の活用や展開が行われることが期待されます。

参考:
国内初、市町村の人口・経済への高校魅力化の影響が明らかに ~高校統廃合に伴い市町村総人口の1%が転出超過、高校魅力化により総人口は5%超増加~

高校魅力化による地方創生を
推進するコンソーシアム構築