福岡県糸島市の地域マーケティング実践の軌跡を克明に

著者の岡祐輔さんは福岡県糸島市の職員で、仕事の傍ら九州大学ビジネススクールでMBAを取得され、その知識を現場で生かして大きな成果をあげられた方です。2016年の内閣府主催「地方創生☆政策アイデアコンテスト2016」や2018年の地方公務員アワードを受賞など数々の高い評価を受け、まさに地域マーケターの代表的存在といってもいいでしょう。本著は、以前にご紹介した著書「糸島発!公務員のマーケティング力」の続編というか、アップデート版という位置づけになるかと思います。その活動の経緯や苦心された経緯、その時々の考え方や成果などがより克明に描かれています。岡さんの功績は、糸島という地域の特性を生かしたマーケティング戦略を、地道な努力と執念で実践し、結果手して非常に大きな成果を積み上げた取り組みのリーダーシップを担われたことです。まさに「地域マーケティング」のお手本というべき事例です。

 【地域マーケティング】
地域マーケティングの主体は、自治体や地域に根ざした企業、組織です。それらの「地域」側に立った主体者が、ヒト・モノ・カネを地域に呼び込むために行う取り組みを「地域マーケティング」と言います。またこうした「地域マーケティング」をリードするノウハウや経験を持った人材を、「地域マーケター」と呼んでいます。(参照:Nativ.media【用語解説】地域マーケティングとは より)

本著が辿る実例が非常に理解しやすいのは、その説明が分かりやすい表現で記されているのもありますが、地域産品の「ふともずく」や「天然真鯛の出汁」など、具体的な商品やその売り方などをリアルに試行錯誤する様子が描かれているからでしょう。興味もそそられますし、実践者でしか語れない生生しさで説得力が違います。

公務員のリブランディングへの貢献も

岡さんにはもう一つの大きな功績があります。それはご本人の『公務員のイメージを変えて、もっと堂々と「公務員です」と言いたい。』という言葉に顕著に現れています。それは正に「公務員のブランディング」への貢献です。全国で、岡さんをはじめ、従来の公務員という言葉のイメージの枠にとらわれない役割を担い、大きな成果を上げている方が増えています。岡さんはその代表選手でしょう。

ただ、本著を読んでいて一つ気づいたことがあります。それは以前使われていた「スーパー公務員」というワードが、どこにも見当たらないことです。

このワードは、既存の枠を越えようとする公務員の皆さんに”分かりやすく”光を当てる役割を担ってきました。一方でその言葉のごとく「スーパーヒーロー」的なイメージが先行し、「たまたま素晴らしい人がいたからできたんだろう」というネガティブな意識を生み出す逆効果があったのも事実です。
ご本人や編集者の方が、これを意識されていたかは全く知りません。
しかし、今回このワードを使わなかったことで、前著の価値をさらにアップデートしているような気がしました。
つまり「意志を持って主体的に取り組めば、誰もが実現できる可能性がある」というメッセージを、より強く感じられたからです。

しかも本著には、「めでたしめでたし」というゴールはどこにも見当たりません。これだけ多くの成果をあげていても尚、日々格闘し、成功と失敗を重ねている様子が行間からにじみ出ています。周囲からの声も様々なのでしょう。それ自体が、本当に「地域のリアル」だと思います。そして、そのことに対して、過去の自分の壁を乗り越えて、自信を持って堂々と取り組んでいる岡さんの姿勢が、非常に強く感じられます。そこが正に、各地で様々な課題に取り組む公務員や、地域の皆さんの勇気の源になるのではないかと思いました。
タイトルに「地域も自分もガチで変える!」とあります。この『「地方創生」は最終的には「自分創生」につながる』という境地は、真の実践者の証でもあります。そういう意味でも、地域に根ざして格闘する皆さんにとって、必読の良著だと思います。

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【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。