「相手が求めているもの」を知るために、
あえて町の外から眺めてみる

たとえば、観光ツアーの文書を役所で作ったとします。役所内だと上司にウケる100点満点の仕事でも、それを実際に興味を持って読んだ人が内容に魅力を感じて行きたくなるかっていうと、必ずしもそうではない。読み手の考え、何を最も知りたいのか考えられてない事が多い。そういうことが、東京にいるとはっきり見えます。美瑛には美しい丘陵群や青い池、白金温泉など多くの魅力があるが、それら全てが「実は空港に近い」ってことは、東京ではほとんど知られていない。美しい風景は魅力だけど北海道は遠くて別世界だよね、と思われている。でも、旭川空港から美瑛市街地までは車なら15分で着きます。羽田~旭川間は飛行機の便数も多いし時間的距離は思いのほか近いのです。

さらに、商売をするにも、今の美瑛はとても適しているということも知られていません。年間180万人もの観光客が訪れること、北海道第2の都市・旭川市に隣接していること、JR・空港のアクセスも良い。生活コスト面でも家賃・物価は安いし、特に商店街には経営者の高齢化で閉めてしまった空き店舗もある。新たなビジネスを生む土壌はできています。今、夏に来て商売をすれば、かなり繁盛するでしょう。北海道自体が歴史の浅い土地だから、常に新しい挑戦を続けてきたため変に足を引っ張るような文化もない。こういう視点は、町の中だけにいる、または東京だけにいると中々気づけない2拠点生活の賜物だと思いますし、如何にしてこれを東京の皆さんに伝えるかをいつも考えています。

美瑛の風景

美瑛町の風景

地方で仕事をしたい人こそ、都会的な俯瞰する視点が役に立つ

「俯瞰することが、仕事の質を高めてくれる。」と思っています。Minecraftってゲーム知ってます?(※主に欧米を中心に人気のゲーム。広大なフィールドで、ブロックを積み上げて自分の家を作ったり冒険したりできる。近年では教育分野の活用も盛ん。)実は僕あれ大好きなんですよ!気合い入れてお城をブロックで作っていく。完成してから小高い丘に登ってお城の形を見て、バランスの悪い点があるのが初めて分かります。

美瑛町の中にいるのは、お城の真下で石を積むのと同じこと。すごく大事な作業ではあるが、全体のバランスは把握できない。東京で仕事して外から俯瞰するようになってはじめて、「ああ、あそこにブロックが足りないな」と気づける。逆に、石を積んでいるときは本当に地味な作業で辛いときもあるが、完成後外から見ると「あれが本当に大事だったんだ」っていう達成感で満たされます。

夜に虫の声が聞こえると「美瑛って本当にいいなあ」と思う

外にいるからこそ、より良く見えるところもあります。東京で暮らすようになって6年経ちましたが、気持ちの上ではもっと美瑛にいる時間を増やしたい。田舎独特の空気感と濃密な人間関係の魅力は、東京に出てからより強く感じるようになりました。そんな「大好きな美瑛」のための仕事を一生懸命やるのが、単純に楽しい。やっぱり、外の人に「美瑛っていいよね」って一番言ってもらえる立場にいるので、単純に鼻が高いですね(笑)。

私は美瑛町に20年以上いた町職員なので、役所の窓口にいたこともあるし、町立病院で医療費の計算をしていたこともあります。いつの間にか東京にも6年以上いて、2拠点の強みでそれこそ俯瞰すると、都会にいる人たちと美瑛の仲間の精神的な距離感が縮まっている気がします。相互の財産の「物々交換」が始まっている。ちょっと偉そうではあるけど、どちらの視点も持っているからこそ、両者にとって価値ある土台作りに参加できていると思います。これから地域に移って活躍したいと考えている人は、かならずその都会の視点が強みになりますよ。

観音様トマト


一般的に考えられている2拠点生活の良さとは、プライベートな部分ばかりに着目していることが多いのではないでしょうか。都会の便利な生活と地域の大自然やスローライフを楽しめる、といった魅力はたしかに2拠点生活の良さです。しかしそれは一部でしかありません。

2拠点生活の良さはビジネスの部分にもあります。当然のことながら、ビジネスでは様々な視点からものを見ることを要求されます。そしてそれは基本でありながら大変難しいことです。その困難を克服するためのヒントが観音さんのお話からはうかがえるのではないでしょうか。ビジネスの都合上仕方なくやっていた2拠点生活は、考え方によってはビジネスを助ける強力なツールになりうるのかもしれません。

取材・文・撮影:編集部
写真提供:美瑛町