「地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋」、第三回は、株式会社パソナグループ 南部靖之代表です。
これからの、本当にあるべき働き方について、そして社員への深い思い。話題を呼んだ本社移転は、そこから生まれたものでした。

1本めの記事はこちら
何が淡路島への移転を決断させたのか?(1)〜株式会社パソナグループ 南部靖之代表〜【地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋】

2本めの記事はこちら
何が淡路島への移転を決断させたのか?(2)〜株式会社パソナグループ 南部靖之代表〜【地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋】

1)「雇用」という概念が無くなる未来

倉重:お聞きしたところでは、代表が未来、近い未来に「雇用」という考え方そのものがなくなるんじゃないかとおっしゃっているそうですね?

南部:そうそう!雇用というものの概念は、基本的に企業が人事権を持って、働く人に指示をするということですよね。もちろん役割を与えて活躍してもらうことは大切ですし、今は会社がそれを主導権を持ってやっているということです。でも、私の目指す関係というのは、会社と働く人がイコール(対等)な立場になることですね。

倉重:うんうん。

南部:もっと言えば、ひとりが複数の会社で仕事をしたり、自分でも会社を作ったりして、曜日を分けて働いたり….。

倉重:はい、はい、はい。

南部:もちろん、働きたい人はいくらでも働けばいいし、そうではない人はそれも自由。その選択権が自分にある、働き方を自由に選べる、そういう社会を作りたい。そうした意味で雇用という概念、考え方を無くして、個人と会社がイコールでつながれている。そんな未来が来ると思います。

倉重:なるほど!それは本当に共感します。うちに関わってるメンバーもそれ近い働き方を始めてる人がいます。うちの仕事をしながら、自分でも会社を起こしてカフェや民泊なんかをやって、同時に地域おこし協力隊のような仕事をやって地域にも貢献するみたいな…。
「複属」っていうんでしょうか。めちゃくちゃ忙しそうなんですけど、やっぱりそういう人たち見てると、すごく楽しそうだし気持ち的にも安定してるというか…。

南部:そういう人は時間的には忙しくても、とても元気で、希望にあふれてる姿をみんなに見せることができるんですよ。働くうえで一番問題なのは、心の問題ですよね。時間的な拘束や人間関係でのストレス。その縛りとか関係そのものが問題です。

倉重:うんうんうん。

南部:もちろん健康には気をつけなければならないですが、肉体的な疲労はぐわーっと寝れば取れますよ(笑)。でも精神的な疲れはそうはいかないでしょう。

倉重:本当にそうですよね。

南部:今、世の中は、ひょっとしたらそういう状況(働く人に精神的な疲労がたまっている)になっているかもしれないと思いますね。自分がやりたいことがやれる選択肢があることが、本当に大切です。

倉重:強制してるわけじゃなくて、選択肢があることが重要っていうことですよね。

南部:そうですね。今では「同一労働同一賃金」が言われてますが、本当にこれもずーっと学生時代から思っていたことなんです。パソナを起業して人材派遣の仕事を始めたときは、正社員の年収を労働時間で割って時間給を決めました。

倉重:そうですか…。

南部:さらに、もっと自由な「同一労働同一賃金」の仕組みができたら、雇用という言葉がなくなるんじゃないかと。これが私の目指す働き方なんですね。

倉重:そういう意味で言うと、本当に起業当初から、頭のどこかにそういうイメージをお持ちだったんですね。

南部:ははは。そうかもしれませんね。

倉重:主婦の活躍する場を作るっていうところから、本当にコロナで一気に時代がそういう南部代表が思ってらっしゃる方向に進んだという面もあるんじゃないかなと。

南部:そうかもしれません。やはりこのコロナは、私にとって本当に迷いを吹き飛ばすきっかけになりました。
もちろん、全部がうまくはいかないですよ。やはりサービス業で働き方を変えるのは大変ですし、いろいろと課題もあると思います。でも今回のコロナ禍によって、みんなが新しい社会のあり方がどうあるべきかを考えるきっかけになったと思います。

2)淡路島で実現したいことの本質とは

倉重:それを、本当に南部代表は、淡路島っていう地を得られてそこでまさに実現されようとされているってことですかね。

南部:私は淡路島にそういう場を作っただけです。このあと、いろんな会社が同じような動きをしてくるかはわかりません。

倉重:ファーストペンギンというか、本当に最初に行動に移した。

南部:そうそう。ただ、社員にもそういう心の準備ができていたのが大きいですね。急に言われたとしたら、私でも「ちょっと待って…」となっていたかもしれない。心の準備、心構えっていうのは何よりも大事です。

倉重:今回の移転については、他のメディアでのインタビューでも、「1,200人規模で移ることに意義がある」とおっしゃっていて「それでこそ新しいコミュニティが生まれて社会構造が変革する」と語られています。

南部:そう思います。

倉重:これを拝見したときに、私自身すごく感銘を受けたんですけど、やろうとしてらっしゃることの本質は、会社の機能を移すとかいうところがゴールじゃなくて、最終的にはやっぱり新たな街作り、極端に言うと国作りみたいなことを目指されてるんじゃないかと。
トヨタが「ITやモビリティに関する技術」を使って、富士山麓で新しい「まちづくり」を始めていますね。パソナはそれを「人」でやろうとしてらっしゃるのかなっていうような、そんな印象すら受けたのですが・・・。

南部:そうですね。私は、人が一度しかない人生を、心豊かに悔いなく生きられることが何より大事だと思っています。二度と無い人生を一緒に生きている社員のみんなに、パソナグループに入ってよかったと言ってもらいたいなと。それが東京でできるなら東京でもいいですし、場所は関係ないんです。
でも先程もお話したように、やはり色んな意味で「集う場所」は必要です。パソナにとってはやはり淡路島が、条件的にもいろいろ考えてみるとすべて整っているじゃないかと。だから1,200人に限らず、来たい人がいればもっともっと呼びたいと思っていますよ。

倉重:なるほど。やられてらっしゃることって、地方創生もそうですけど、ゴールはやっぱりあえて言うと人間創生っていうか、なんかそういうところに繋がる。そんな気がしますが。

南部:みんな人間ですから、場所さえ与えればのびのびと楽しんでくれます。大切なのは、そういう場を創るということだと思います。私の行動のポリシーは「迷ったらやる」。これは座右の銘なんです。倉重:それは本当に難しいことなんですよね。人の気持ちに寄り添って、場を創るというのが…自分も本当に一番悩んでいることかもしれません。

南部:私も常に反省してますよ(笑)。もっと優しくしてあげられたんじゃないかとか、悩んでばかりです。

倉重:そうなんですか(笑)?

南部:時間というものは命の次に大切なものですから、もっと社員に時間を費やしてあげればよかったとか、もっと話を聞いてあげればよかったとか。しょっちゅう思っています。難しいですよね。

倉重:本当にそうですね…。

南部:でも、(倉重さんも)こういうお仕事をはじめたっていうことは素晴らしいし、影響力も大きいから、続けていけばみんなが喜びますよ。

倉重:ありがとうございます。がんばります!
私も地方出身なので、思い入れもあって始めたことではあるんですが、世の中がこういう流れになって、今日もご縁をいただいてこういうお話をうかがえて、改めてこういう考え方や価値観を、多くの人に伝える大切さを痛感しました。

南部:こちらこそ、いいチャンスをいただきました。

倉重:今日は貴重なお時間いただいて、本当にありがとうございました。

南部:ありがとうございました。

倉重:いつかまた、淡路島でお会いできるのを楽しみにしております。

南部:はい、是非いらしてください。いいところですよ(笑)。

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南部 靖之(なんぶ やすゆき)
兵庫県 神戸市 出身。1976年2月、「家庭の主婦の再就職を応援したい」という思いから、
大学卒業の1ヶ月前に起業、人材派遣システムをスタート。以来“雇用創造”をミッションとし、新たな就労や雇用のあり方を社会に提案、 そのための雇用インフラを構築し続けている。

【インタビュアー】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門のベンチャーに創業期から参画。大手企業のネット戦略、Webプロデュースなどに数多く携わる。2012年に北海道の地域観光メディアを立ち上げたのをきっかけに、2013年「沖縄CLIP」、2014年「瀬戸内Finder」を手がける。2016年3月、地域マーケティング専門企業「ネイティブ株式会社」を起業し独立。