福岡にクリエイティブ人材を一本釣り!

そんな福岡市の発展にとって、なによりも大切なのが、「人材」である。実際、山下さんが福岡市に企業を誘致する際も、「福岡、いいところですよね!でも、そちらに移って現地でちゃんと人が採用できますかね?」と聞かれることが多かったという。地場のクリエイティブ企業でも採用については頭を悩ませているところが多く、そんな悩みに応えるべく福岡市が福岡移住計画(福岡への移住をサポートする任意団体)にも協力を仰ぎながら立ち上げたのが、今年で5年目となる「福岡クリエイティブキャンプ」(FCC)だ。

U・Iターン希望者のなかでも、プログラマーやデザイナーといったIT・デジタルコンテンツ分野に特化した移住・転職応援のプロジェクトで、2014年度から始まり、これまでの登録者数は累計380人ほど。採用先として登録している企業は延べ180社を数える。

「福岡は教育機関が集積しており、学生も多いため若い人材は多い。ただし、福岡に事業所を立ち上げたとして、拠点の核になるようなメンバーを現地採用できるのか、また地場の企業が東京や海外への進出を考えたとき、東京で経験を積んだ人を採用したいといったニーズを感じました。福岡で採用してもらうことも大事ですが、それだけでは足りない。東京にクリエイティブ人材が集まっているのであれば、いっそU・Iターンで呼び込んだらいいじゃないか、という単純な考えからスタートしたんです。
企業とディスカッションするなかで青写真が生まれ、福岡移住計画代表の須賀大介さんとの出会いにより、一気に具体化していきました。」

「福岡移住計画」関連記事
移住してゼロからリスタート。IT社長が体当たりでつくってきた、移住サポートと他拠点の働き方とは?

「ぼくらの福岡移住計画 2014 in TOKYO」と銘打って東京で開催した初めてのイベントでは、150名もの参加があり福岡移住の機運の高まりを感じる。このときのアンケート結果でも移住の課題となっていたのが「仕事」(57%)について。転職紹介サービスなどを展開するマイナビとも連携した「福岡クリエイティブキャンプ」が翌年本格的にスタートし、市内のクリエイティブ企業での2カ月に及ぶOJT期間中の給与を市が負担するという画期的な施策で話題をさらった(現在は市内クリエイティブ企業への無料転職紹介)。

スタートアップ増加中。支店経済からの脱却

これまでの登録者380名のうちアクティブに転職・移住に関して動きがあった人が約半数。実際に移住した数が60名ほどというから、このプロジェクトに参加した約3割が移住している計算だ。そして、山下さんが把握している限り、移住後に福岡から出た方はたった1人だという。入ったら出られない「ブラックホール」福岡の面目躍如である。

しかし、山下さんは現状について「現在は5年目ですが、まだまだ周知の仕方や実際の採用に関しての課題は多いです。」と語る。

FCCの登録企業を見ると、妖怪ウォッチで知られる株式会社レベルファイブを筆頭に、500人採用がニュースになったLINE Fukuoka株式会社、カンヌ国際広告祭フィルム部門で金賞を受賞したCG・映像制作の空気株式会社など、錚々たる企業とともに新進気鋭のスタートアップ企業も名を連ねている。

「年間でいうと、70社ほどご登録いただいているなかで20名ほどしかご紹介できていない、ということがあります。実績として積み上げてきたものはありますが、満足できる数ではありません。連携しているマイナビさん、福岡移住計画さんとさらにインパクトを高めていけるよう、意見交換を継続しています。」

ただ、これまでの企業誘致やFCCなどの成果が徐々に実を結び、「クリエイティブ企業と人材が集まる街」としての福岡市の価値は上がっており、アニメ・CGの制作を行うプロジェクトスタジオQ(*)など、創業の地として福岡を選ぶ企業も増えている。

旧大名小学校校舎を使った官民協働による創業支援施設「Fukuoka Growth Next」には、現在107の会社・団体が入居。創業コンシェルジュが常駐するスタートアップカフェや、DIYスタジオ、ネットワーキングに最適な立ち飲みバーなども入っており、スタートアップ支援の機能が集約されている。創業後も行政主導のサポートだけでなく、民間の団体が主催するピッチ大会などスタートアップ関連のイベントには事欠かない。山下さんも「スタートアップを生み出しやすい、生まれやすい環境ができつつある」ことを感じている。

*2017年7月に株式会社カラー(代表庵野秀明)と株式会社ドワンゴ、学校法人麻生塾(西日本最大の専門学校グループ)の3社で福岡市に共同設立された新会社。

「福岡市」という祭りを支える当事者であり続けたい

最後に、山下さんに今後の夢について聞いてみた。

「福岡という都市の成長に寄り添って、自分もその祭りの当事者でありたいと思っています。運営側でいいので(笑)。本当は地元に残りたいけれど、出ざるを得ない方がかなりおられます。そんな方のためにもっと働く場所・働き方の選択肢を多くしたいですし、福岡で育った学生さんやもとからの福岡市民、海外などにいる方の選択肢としても福岡を選んでほしいです。そして、将来的にも9割以上の市民の方に住みやすい街だと言ってもらいたい。

東京よりも福岡のほうが熱い仕事ができる、といった環境ができていくのが理想で、他のところで生まれ育っても、就職するならやっぱり福岡よね、みたいな話になったら最高です!」

未来の福岡市のことを語る山下さんは本当にうれしそうだ。地元愛という圧倒的な「熱量」がダイレクトに伝わってくる。そして、山下さんだけにその「熱」が特別に備わっているわけではないことに、福岡が持つ素晴らしいポテンシャルを感じる。

人と地理、産業的な特性を最大限に生かした成長戦略。福岡市発展のための羅針盤は、進むべき方向をしっかりと指し示している。少しでも関わった人をことごとくその魅力の虜にし、飲み込むブラックホール都市・福岡から、ますます目が離せない。

取材・文:池田愛子/撮影:窪田司(スマートデザインアソシエーション)
企画・編集:(共同)編集部・福岡移住計画
写真提供:福岡市役所

山下 龍二郎(やました りゅうじろう)

福岡市 経済観光文化局 創業・立地推進部 企業誘致課 企業誘致係長。
熊本県出身。小学校から高校までを福岡で過ごす。関西の大学を卒業後、富士フイルム株式会社にて海外事業のマーケティングなどを担当。31歳で福岡市役所に転職し、交通局、環境局、広報戦略室を経て経済観光文化局で企業誘致を担当。