2009年度より総務省の制度としてスタートした、地域おこし協力隊制度。地域の活性化と地方への定住・定着を目的に都市部から移住した後に最大3年間、その地域の地場産品の開発・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行う制度で、近年島根県では注目すべき取り組みが始まっています。

その取り組みとは、現役で活躍する協力隊の皆さんや卒業生を繋ぎ、サポートする法人団体「一般社団法人しまね協力隊ネットワーク」の活動です。 県単位での地域おこし協力隊支援を目的とした法人としては岡山県に続き全国2番目で、2017年度に立ち上げ、2019年度に法人化した組織です。代表には自身も2011年8月〜2014年3月まで島根県雲南市で地域おこし協力隊の経験がある三瓶裕美さんが務めています。

今回、「しまね協力隊ネットワーク」が行うサポートについて三瓶さんに取材を行い、他地域の地域おこし協力隊と比較してどのような特徴が島根県にあるのかその魅力を紹介したいと思います。

取材に答える三瓶さん

■プロフィール
三瓶裕美(さんべひろみ)
一般社団法人しまね協力隊ネットワーク共同代表、つちのと舎代表、地域おこし協力隊サポートデスク専門相談員、総務省地域力創造アドバイザー、社会教育士。1975年、東京生まれ東京育ち。大学在学中から体づくりに携わり、トレーナー、エステティシャン、セラピストを生業として暮らす。体と向き合ううちに、食、そして農への興味がわき、環境問題や社会問題への関心から、農ある暮らしを志向するように。東日本大震災を機に移住し、2011年8月〜2014年3月雲南市地域おこし協力隊(大東町塩田地区担当)として活動した。

「しまね協力隊ネットワーク」立ち上げ背景

三瓶さん:団体発足前、島根は都道府県別の調査で全国平均の63%を大きく下回る37%と、定住率が非常に低いという調査結果が出ました。課題に感じていたところ、近隣の岡山県で地域おこし協力隊ネットワーク立ち上げの動きがあり、島根もぜひやってみようということで2017年度に任意団体として立ち上げたのがきっかけです。

私自身、島根県雲南市で協力隊として活動したOGですが、他の地域の協力隊とのつながりや島根県内の地域づくりに関わる皆さんとのつながりにだいぶ助けてもらいました。より積極的につながりづくりを行うことで、より「ハッピーなしまねライフ」を送ることができるのではと考え取り組んでいます。事業としては特に研修に力を入れており、団体設立前は協力隊だけに向けた研修がなかったため、私が当時アドバイザーをしていた協力隊の全国研修にならってつくりました。

島根では協力隊以外でも研修が充実しており、比較的つながりはつくりやすいのですが、「公的な仕事×移住者」という存在であることや、協力隊制度ならではの側面にフォーカスしているので、より具体的な悩みの共有やつながりづくりに役立つと喜んでもらえていると感じています。

●一般社団法人しまね協力隊ネットワーク
https://shimaneknw.localinfo.jp/

【独自の手厚いサポート】OB・OGによるスキル研修×オンライン化による動画配信×交流会

三瓶さん:先にお話したとおり、島根県内で地域おこし協力隊をメインにした研修がなかったので、当団体では協力隊のみを対象とした研修からつくり始めました。2021年度は、6月に初任者研修と自治体職員向け研修、10月に全体研修を行っています。新型コロナウイルスの影響で、OB・OGによる事例紹介やスキル研修など、オンライン研修の場を増やしました。今年は3月に活動発表会(着任3年目対象)を実施する予定です。

地域おこし協力隊メインの研修

● 初任者研修(6月)
基調講演:田中輝美氏(島根県立大学准教授)
ワークショップ:地域づくりクロスロード

初任者研修の様子

● 全体研修(10月)
基調講演:田口太郎氏(徳島大学准教授)
ワークショップ:地域づくりコーディネートゲーム

●オンラインセミナー
Zoom入門講座(西嶋、曽我)
空家活用、場づくり講座(舟山、曽我)
チラシ、企画デザイン講座(西嶋、曽我)
テーマでつながる協力隊ネットワーク(塩谷、三瓶)

● 生業づくりセミナー
起業したOB訪問 @奥出雲町 金吉屋 ・・・糸賀夏樹氏(奥出雲町OB、株式会社Oku-reno.)
協力隊の生業づくり @雲南市 つちのと舎 ・・藤井裕也氏(岡山県地域おこし協力隊NW等)
事業計画はじめの一歩 @江津市 パレット江津・・NPO法人てごねっと石見
確定申告講座 @松江市 テクノアークしまね ・・よろづ支援拠点

● その他研修、イベント
隠岐視察研修(9月→3月)
高津川流域地域おこし協力隊会議(1月)
活動大発表会(3月)

【生業づくり研修1】
7月16日(金) 生業づくり研修の第1回を開催。久しぶりの現地開催での研修、今回は起業したOBを視察訪問しよう!という趣旨で、オクリノ不動産を起業された奥出雲町OBの糸賀夏樹さんと 濱田達雄さんを訪ねました。

【生業づくり研修2】
8月26日(木)、生業づくり研修 vol.2を開催。今回は岡山県地域おこし協力隊ネットワーク代表の藤井裕也さんに講師をお願いし、(一社)しまね協力隊ネットワーク代表の三瓶の拠点「つちのと舎」を会場に実施しました。

これらの研修後は、「つながりがつくれた」「県内の他の自治体に行ってみる楽しみが生まれた」「活動自体の悩み相談ができる」との反応をいただいています。中には、協力隊としての活動中は自分に対して俯瞰的になりにくいため、研修によって活動から離れたところから、振り返りや今後の見つめ直しができるというメリットを挙げてくれた人もいました。

自治体向けサポート

●自治体職員研修(6月)
島根県の地域おこし協力隊について(島根県庁地域振興部しまね暮らし推進課)
『地域おこし協力隊等と地域力創造施策』について
講師:菊地信果夫様(総務省地域力創造グループ地域自立応援課 課長補佐)
協力隊担当とらのまき〜受入準備、活動支援、募集活動業務内容をフェーズごとに解説〜
講師:浮須崇徳様(NPO法人ヨリシロ 代表理事/新潟県胎内市教育委員会)

●自治体との意見交換会
・島根県庁の地域おこし協力隊担当者とともに全19市町村を訪問し、意見交換を行っています(コロナの状況によってはオンラインで実施)。市町村の状況に合わせて情報提供し、いただいた意見をサポート体制づくりに活かしています。

オンラインで動画配信

三瓶さん:ネットワークのメンバーに知見がある人がいたため、新型コロナウイルスの拡大時には、いち早く研修のオンライン化を行なってきました。実際に現地で交流することが望ましい「生業づくり」の研修は、オフラインかつ小規模で対応していますが、高いクオリティを追求してできるだけ現地で行うのと変わりないようなワークショップもオンラインで開催しています。また、ネットワークのメンバーの協力を得て、オンラインスキルも身に付けることができるように対応しています。YouTubeには一部アーカイブを残しているので、当日参加できなかった人も学ぶことが可能です。私たちは、「島根県に協力隊として来る人のセーフティーネットをつくりたい」という願いを持っており、そのため、YouTubeやポッドキャストでも「協力隊の方に、安心して島根にいてもらえるためには」ということを常に念頭に置いたコンテンツづくりを心がけています。他県で協力隊サポートに取り組む人たちともつながり、情報交換しながら、より良いサポート体制づくりに取り組んでいます。

■動画紹介  しまね協力隊つながる!トーク2020
農ある暮らしで協力隊サポートな地域おこし協力隊卒業生に聞く しまね協力隊ネットワーク代表 三瓶裕美さん【しまね協力隊トーク】

「地域おこし協力隊の原点と今、これからの展望」(公社)中越防災安全推進機構 稲垣文彦氏【島根県地域おこし協力隊研修会】

交流や相談の場づくり

三瓶さん:私自身も協力隊であったときに、こちらの想いをうまく自治体の担当者の方に伝えられない、他の自治体の協力隊の様子がわからないなど、関係づくりの面で悩むことがありました。その経験から、各自治体の協力隊がつながる交流会の開催など、身構えずに安心して相談できる場づくりをしています。また、島根県庁の地域おこし協力隊担当の方と市町村を巡って意見交換をさせてもらっています。各自治体でどのように協力隊を入れているかうかがい、課題に感じておられることや、今後の展開についてなど、こちらからも情報提供させていただきながらお話しし、隊員にとっても、自治体にとっても、地域にとっても、より良い制度活用となるよう努めていきます。

サポート活動を通じて伝えたい想い

三瓶さん:サポート側として協力隊の皆さんに大事にしていただきたいと思うことは、「自分の軸を持つ」ということです。一方で、自分のやりたいことの前に、地域の皆さんからの頼まれごとを引き受けて信頼を積み重ねる「信頼貯金」も大切です。信頼を積み重ねていく中で、自分のやりたいことと地域がやってほしいことの重なり代が徐々に大きくなっていくものだと思います。

協力隊には任期があるので、任期後のことを不安に思う人は少なくないと思います。私もかつてそうでした。ですが、想いを持って主体的に活動を積み重ねていく地域おこし協力隊という経験は、自分の人生の大きな糧となり、叶えたい未来への一歩となり得ます。

今後の展望について

三瓶さん:現在も地域おこし協力隊の隊員数は増えており、サポートを求められる場面も増えてきましたので、協力隊のサポートをできる人を育て、仲間を増やしていきたいです。現在、事業に関わるメンバーは15名ほどですが、「このエリアには○○さんがいるから安心だ」と言えるような体制を整えることが理想です。

サポート業務の内容としては、研修などでの事例発表、ワークショップのファシリテーション(話し合いの場づくり)があります。また、今のところ協力隊だけのための公的な相談窓口がないため、現役協力隊が安心して困っていることなどを話せる「気軽な相談相手」としての役割も期待しています。

特に最近は、協力隊が関わる分野が、農業や漁業などの一次産業から、教育、起業・事業承継、スポーツなど多岐に渡ってきているので、分野ごとのコミュニティができるといいなと考えています。以前に比べて移住のハードルが下がってきた今、よりスムーズに活動が始められて、地域で暮らし続けたくなるような活動を行うサポートや環境づくりを、私たちとしては大事にしていきたいです。

「しまね地域おこし協力隊ネットワーク」の皆さん

■参考サイト
●移住ポータルサイトくらしまねっと
https://www.kurashimanet.jp/

●しまね関係人口マッチング・交流サイト「しまっち!」
https://shi-match.jp/