福島12市町村でも多くの市町村が用意しているお試し暮らしの制度。「移住前に現地での生活を体験したい」という人にぴったりの支援制度です。今回は、浪江町の「お試し宿泊」をご紹介します。

浪江町は、2017年3月末に帰還困難区域を除き避難指示が解除され、住民の居住が可能になりました。2020年8月にオープンした「道の駅なみえ」には福島県内外から多くの人が訪れ、JR浪江駅周辺の再開発では、国立競技場などを手掛けた建築家・隈研吾氏が空間デザインに関わるなど、勢いを感じさせる町の一つです。

移住検討者同士の情報交換も

浪江町のお試し宿泊は、JR浪江駅から車で5分ほどの高台にある宿泊施設「いこいの村なみえ」のコテージを利用します。自然豊かなエリアに位置し、大浴場やレストランも併設、春から秋にかけてはバーベキューなども楽しむことのできる、まさに町民にとっての憩いの場です。

今年度から「まちづくりなみえ」で移住・定住相談窓口を担当する、浪江町出身の金子恵さんと玉野文菜さんのお2人に、お試し宿泊の特徴について伺いました。

(左から)玉野さんと金子さん

浪江町のお試し宿泊の特徴は、ほかの市町村が採用しているような戸建てや集合住宅ではなく、宿泊施設を利用できること。最大5人まで泊まれるコテージは、被災者のためのログハウス仮設住宅を移設したもので、木のぬくもりが安心感をもたらしてくれるとともに、あらためて震災と原発事故を考えるきっかけも与えてくれます。

最大の利点は、同時期に宿泊しているほかの移住検討者がいれば“ご近所さん”として話ができるタイミングもあること。「コテージの周りや大浴場などで情報交換をしたという話をよく聞きます。移住検討という同じ目的で浪江町に来ている人と話せるのは、このお試し宿泊のいいところかなと思います」と金子さん。

ひとりで情報収集をするには限りがあるもの。時には寂しさを感じるときもあるかもしれません。そんな時、近くに同じ立場の人がいるのは心強いですね。

こちらは1人用の部屋。ほかに3人まで、5人まで使える部屋もあり、家族やカップルでの利用も可能

1回あたり30泊、年度内に2回まで利用することができ、1回当たりの利用料は何泊であっても定額の2万円です。利用料には、大浴場の入浴料も含まれています。

コテージには家具や寝具はもちろん、食器や調理器具も各種そろっているため、着いたその日からお試し宿泊を始めることができます。フリーWi-Fiも利用可能で、実際の生活に近い形で過ごすことができるので、浪江町に移住した際にテレワークでの仕事が可能か検討される人も多いとか。

食材や日用品は、車で5分の距離にある「イオン浪江店」や「道の駅なみえ」、コンビニで調達可能。フロント預かりで通販利用も可能です。

自家用車がなくても、買い物やお出かけにはスマートフォンで呼び出しができるオンデマンド交通「なみえスマートモビリティ」で移動できます(※年末年始・日曜は休業)。周辺市町村にも出かけてみたいという場合は、レンタカーの補助制度も利用可能ですが、実際に移住するという段階になれば、車はあった方が便利とのこと。

町の人とつながることが移住の一歩

浪江町ではお試し宿泊を利用する人に向けた決まったプログラムはなく、基本的に過ごし方は自由です。要望があれば、まちづくりなみえがニーズに合った情報の提供や人の紹介をしてくれます。既に移住の意思を固めている人には、不動産会社や、仕事を探すためにハローワークに案内することもあります。反対に、漠然と「まちづくりや復興に関わりたい」という思いを持って移住を希望する人には、まず浪江町や周辺地域を知ってもらうために町内を案内したり、キーパーソンを紹介したりすることも。移住・定住担当のお2人が一番大切に思っているのも、町の人とのつながりをつくることだと言います。

昨年度は30代~50代と幅広い世代で、24人が利用したそうです。「お試し宿泊を利用する方は、30泊まで滞在できるということもあって計画を綿密に立ててから来る人が多い印象ですね。リサーチしたいことを固めてきている人も多いです」と金子さんは話します。

利用者からは、「交通や買い物など、暮らすうえでのイメージが持てた」「近隣市町村の生活環境や状況も知ることができた」など、好意的な感想が多いそう。町の人と交流を深めたことで、滞在中に移住後の事業計画を仕上げた人もいるとか。

「イベントなどをきっかけに浪江町に来て、町の人とつながり、何度も足を運ぶようになって…と、現地の人との関係性ができてから移住した人が多い印象です。お試し宿泊の期間に、なるべく多くの方と出会うことが移住への一歩になるのではないでしょうか」と金子さんは言います。

2023年3月時点の浪江町の居住人口は約2,000人ですが、飲食店は移動店舗も含めると、なんと約40店舗もあります!世話好きな店主がいる店も多いとのことなので、お試し宿泊中に町内の飲食店を巡りながら人とのつながりをつくっていけるのも、浪江町の特徴かもしれません。

「浪江の人は、基本的にどんな人もウェルカムという人が多くて、年代に関係なく、いいご縁があって移住した方が多いですね」と話すお2人。その「ご縁」をつなぐ役割を果たすのが浪江町出身者であることも頼もしいですね。

補助制度を活用した短期宿泊も歓迎

金子さんは、町内の山間地に位置する 立野(たつの)地区のご出身。震災の影響で家は解体してしまったそうですが、実家があった周辺の豊かな自然が大好きで、今でも時々訪ねているとのこと。「移住して来られた方のほうが、今の浪江町のことをよく知っていたりして。私も一緒に学んでいるところです」と言います。

町内の沿岸部に位置する請戸(うけど)小学校ご出身の玉野さんは、大学の卒業制作で震災のことを取り上げたことから、ふるさとへの思いを強く感じ、地元企業のまちづくりなみえに就職しました。「移住を検討している方に町を案内する機会もあるので、自分の経験を活かしていきたいです」と話します。

最後に、移住を検討している方へ、お2人からメッセージをいただきました。

「浪江には震災前からイベント好きな方が多く、十日市や地元のお祭り、B級グルメ『なみえ焼そば』などによる地域おこしで人を呼び込んでいました。そうしたイベントをきっかけに町を訪れ、今の浪江町の状況を直接感じて、興味を持っていただければと思っています。県外在住の方のみにはなりますが、お試し宿泊のほかにも、いこいの村なみえを含めた町内5ヵ所の宿泊施設で利用可能な『町内滞在宿泊費補助制度』も準備しています。5日間まで、1泊につき1人2,500円の宿泊費が補助されますので、週末だけの滞在なども可能です。私たちが、ご相談者の心ゆくまでサポートいたしますので、ご自身に合った形で移住をご検討ください!」

浪江出身の頼れるお2人を訪ね、充実した浪江町のお試し宿泊を体験してみてください。

詳しくはこちらをご覧ください。
https://iju.mdnamie.jp/support/support-05/

また、町には1泊当たりの宿泊費が年間5泊、2,500円補助される「町内滞在宿泊費補助制度」もあります。短期間の訪問には、ぜひこちらをご活用ください。
https://iju.mdnamie.jp/support/support-04/

福島12市町村移住支援センターでは、福島12市町村を訪問する際の交通費と宿泊費を年度内5回まで補助する「ふくしま12市町村移住支援交通費等補助金」も用意しています。
https://mirai-work.life/support/transportation/

浪江町移住ガイド
https://iju.mdnamie.jp

 

■一般社団法人まちづくりなみえ
所在地:〒979-1513 福島県双葉郡浪江町幾世橋字大添52-1
TEL:0240-23-7530(受付時間9:00~18:00)
水・日曜、祝日定休
https://www.mdnamie.jp/

※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:山根麻衣子 撮影:五十嵐秋音

※本記事はふくしま12市町村移住ポータルサイト『未来ワークふくしま』からの転載です。