fbpx

事故から13年。福島第一原子力発電所の廃炉の今を知る

By |2024-03-14T15:00:18+09:002024.03.14|Tags: , |

東日本大震災に伴う事故から13年。双葉町と大熊町にまたがる福島第一原子力発電所では、日々多くの作業員が廃炉作業に従事しています。主に福島県浜通りの13市町村に住む方に向けて定期的に開催されている視察・座談会に参加し、30年から40年かかるとされる廃炉作業の進捗状況とこの先の廃炉へのビジョンについて、東京電力ホールディングス株式会社 福島第一廃炉推進カンパニー 廃炉コミュニケーションセンター 副所長兼リスクコミュニケーターの松尾桂介さんに話を聞きました。

建屋ごとに異なる環境に合わせ廃炉作業を進行

廃炉に向けた作業は、大きく4つに分類できます。事故により溶け出した後に冷えて固まった燃料デブリを冷やすことにより発生した汚染水の処理、使用済燃料プールからの核燃料の取り出し、燃料デブリの取り出し、そして、それらの作業によって発生する廃棄物の対策です。そのうち汚染水の対応については、2023年にALPS処理水の海洋放出が始まったことがメディアでも多く取り上げられました。

「放出に際しては、発電所の敷地から約1km先まで放出用のトンネルを掘り、そのトンネルを通じて放出を行っています。放出しているのは、汚染水からトリチウムや炭素14を除く62種類の放射性物質を国の規制基準を下回るまで除去した水で、この水がALPS処理水と呼ばれるものです。ただし、トリチウムは除去できないため、大量の海水で国の基準の40分の1未満となるまで希釈したうえで放出しています」

核燃料の取り出しは、2024年2月現在、1号機から4号機の中にあった3,000体ほどの燃料のうち、3号機と4号機にあった約2,000体の取り出しが終わっています。1号機と2号機に残る約1,000体の取り出しに向けて準備を進めているそうです。

現在の原子炉建屋を見ると、各号機で見た目がかなり違います。これはなぜなのでしょうか。

「事故が起きた状況がそれぞれの号機で異なるためです。例えば、3号機は現在かまぼこのような形状のカバーを乗せた状態になっています。これは、水素爆発のため損傷した建屋に負担をかけないように地上から支え、強度を保ちながら軽量化を考えた構造としたもので、かまぼこ型のカバーの中には核燃料を取り出す装置やクレーンが設置されています。

1号機から4号機までを見渡せる「ブルーデッキ」では今も比較的高い線量が計測されるが、視察の際に防護服の必要はない。参加者は一人ずつ線量計を付け、厳格な時間や線量の管理のもとで視察に参加する

一方、水素爆発を起こさなかった2号機は建屋の壁が残っているため、南側の壁の一部にあなを開け、真横から核燃料を取り出す準備をしています。1号機は水素爆発によって建屋の壁が崩落してしまっているため、今後建屋の周辺にカバーをかけ、そのうえで核燃料を取り出す作業に入る予定です。いずれの号機でも、最大限に安全性を確保しながら、それぞれにベストな方法で燃料や燃料デブリを取り出す方法を選択しています」

カバー設置作業が続く1号機

1日4,500名の作業員が廃炉作業に従事

2024年2月、東京電力は、同年3月に開始予定だった2号機燃料デブリの取り出しを延期すると発表しました。国と東京電力で廃炉工程の目標を定めた「中長期ロードマップ」では2021年中に燃料デブリの取り出しを開始する予定でしたが、これで3度目の延期となりました。この状況について、松尾さんはこう語ります。

「装置の開発や安全性の確認・徹底、新型コロナウイルスの流行による作業の停滞などが遅れの要因です。安全の確保が何より優先されることはすべての廃炉作業に共通しますが、とりわけ燃料デブリの取り出しは廃炉作業の本丸といえるものであり、非常に慎重かつ確実な作業が求められます。今後も安全を最優先に考えながら、早期に開始できるよう準備を進めます」

現在、こうした廃炉の作業には、1日あたり4,500名もの作業員が携わっています。年代は40~50代の方が半数以上を占めており、約7割が福島12市町村を含む福島県内に住む方だそうです。廃炉作業を請け負う企業の中には近隣に宿舎や寮を設けている企業もあり、そこに住みながら作業に従事する方も少なくないとのことです。

また、前例のない廃炉作業を進めるためには国内のさまざまな先端技術を集約し取り組む必要がありますが、現在は県内外の大手企業の技術開発力に依存せざるを得ない状態です。松尾さんは、もっと地元企業にも廃炉に関する高い技術が広がり、将来的には福島県内の力を中心に廃炉が進むことにより、地域経済の循環に貢献できるようになりたいとも語ります。

地域住民に向けた視察座談会を毎月開催

東京電力では、ウェブサイトや記者会見を通して廃炉の最新情報を公表し、また2017年4月からは廃炉情報誌『はいろみち』を隔月で発行しています。実際に福島第一原子力発電所で働く社員が取材や編集を担当する冊子で、周辺自治体に配布しているほか、インターネットでPDF版も公開しています。

ただ、その内容には専門用語も多く、理解が難しいと感じることも少なくありません。松尾さんは、より噛み砕いた表現を用いることを心掛けていると言います。

「カタカナの言葉やアルファベットの略語が多いのは確かですが、それを単純に日本語に置き換えれば伝わるかというと、そうとも言えません。みなさまにとって馴染みのあるようなものに例えて説明するなど、できる限りの工夫をしながら情報を発信しています」

廃炉情報誌『はいろみち』(中央)。視察・座談会では、他にも廃炉作業への理解を深めるさまざまな資料が配布される

また、県内浜通り13市町村に住む人々に向けては、廃炉の状況を実際に目にできる視察・座談会を毎月開催しており、13市町村以外の福島県内の自治体にお住まいの方に向けても、冬場を除き毎月開催しています。富岡町にある東京電力廃炉資料館を発着場所とする4時間ほどの行程で、水素爆発を起こした原子炉建屋を数十メートル離れた場所から見学できるほか、ALPS処理水の海洋放出に関するプロセスの説明や東電社員との意見交換などを通し、廃炉作業の現状と課題を知る機会を提供しています。

東電社員を交えた座談会の様子

「参加者の方からは、単に廃炉の状況を知るだけではなく、実際にそこで働く人の姿を目にすることで廃炉作業をより身近に感じたといった声をいただいています。また、若い参加者の方からは、『友達を誘ったけれど“怖いから”といって断られた』という声もいただきました。実際に来ていただくことで皆様の中で情報がアップデートされ、安心につながるはずだといった考えがありましたが、こちらに来られる以前の段階でそうした印象をお持ちだとすると、さらに広く情報を発信しなければと感じています」

2024年度の視察・座談会は、『18歳以上の方で、現在福島県内にお住まいの方または2011年3月11日時点で福島県内にお住まいだった方』を対象に毎月1回、年12回開催します。

福島への責任を果たすことが会社存続の理由であり使命

今後も長い時間を要する廃炉作業。今後の作業のビジョンと、その中で福島とどう関わっていくのかについて、最後に松尾さんはこう語りました。

松尾桂介 廃炉コミュニケーションセンター副所長

「事故を起こした事業者として福島に対する責任を果たすこと。それが、会社が存続する最大の理由であり使命だと思っています。その使命を踏まえたうえで、廃炉と復興の両立を進めることが、今後のビジョンとなるかと思います。

廃炉作業にはさまざまなリスクが潜んでおり、ときにはトラブルが発生することもありますが、それも含めて正確にお伝えしていくことが必要だと思っています。事故への反省を踏まえながら地道に作業に取り組み、廃炉をしっかり貫徹させることで、少しでも信頼いただけるような存在になっていければと思います」

こうしている時間にも、多くの人が廃炉作業に取り組んでいます。日々積極的に発信される情報に目や耳を傾け、その状況を正しく理解すること。それが今、私たち一人ひとりにできることです。

東京電力ホールディングス 廃炉プロジェクト
https://www.tepco.co.jp/decommission/

※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:髙橋晃浩

※本記事はふくしま12市町村移住ポータルサイト『未来ワークふくしま』からの転載です。

Go to Top