最近、あちこちで「オープンイノベーション」というワードが話題になっています。
少し前からよく聞くワードですが、個人的にはここ数ヶ月特によく聞くような気がします。
こういうときは、Google Trendで調べてみると、その盛り上がりの傾向が客観的に確かめられます。

(出典:Google Trendで「オープンイノベーション」を検索した結果)これを見ると、やはり着実に伸びているようで、5年前に比べて2倍以上になっています。
さらに今年になって2月と4月に大きな山があるようなので、最近特に話題になっているという感覚もまんざら間違っていないようです。ちなみに皆さんは「eiicon (イーコン)」というサービスをご存知でしょうか?
まさにこの「オープンイノベーション」を創出するプラットフォームとして、多くの大企業とベンチャー企業/スタートアップのマッチングを行っています。
このサービスは、2017年ころにあの人材大手のパーソルグループの新規事業として始まったようです。
現在はパーソルイノベーション株式会社という独立法人で、この事業を推進しています。
実は弊社も登録して利用させていただいており、大手企業数社とお話する機会をいただいた経験があります。
すでに5,000社を超える登録社数だそうで、面会いただいた企業も、このサービスを高く評価されていたのが印象的でした。まさに時流に乗ったサービスなのかもしれません。

成功の”鍵”は何?

「イノベーションのジレンマ」という言葉は、あまりに有名なので、あえて説明する必要はないでしょう。
ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン氏が1992年に提唱し、日本でもその著書が2001年ころ話題になりました。
オープンイノベーションは、ある意味その”打開策”の一つとして、徐々に広まってきたとも言えるかもしれません。

それもあってか、日本ではオープンイノベーション自体が「大企業がスタートアップを取り込んでやる新規事業」という少し狭い意味で捉えられているようですが、本来は、特に大企業に限らず、様々な規模や事業体た組織が、自前主義を脱却し、多様なプレイヤーとのコラボレーションをして起こすイノベーションを言います。それはともかく、あらゆる分野で非連続的な変化が起こっている現代においては、だれもが必要なスタンスだと感じていることは事実です。
昨今のSNSの進化や、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の広がり、また先程ご紹介したようなプラットフォームなど、それを後押しする環境は急速に整っているともいえます。
しかし一方で、特にこの日本では、それが加速度的に広まって成功事例を数多く生み出すレベルに至っているかというと、必ずしもそこまでとは言えません。まさに「いよいよこれから」という段階でしょうか。

では、この「オープンイノベーション」の、成功の”鍵”はどこにあるんでしょうか?

前述の企業側の意欲や、体制や環境の変化はもちろんその要素の一つです。
その他にも様々な意見やポイントがあると思いますが、個人的に「実はこれがかなり重要」だと思う要素が一つあります。

それは、あえて誤解を恐れずに言えば、「それをやる人の”野心”」です。

実は、我々の事業も、その殆どが大企業や自治体とのコラボレーションで成り立っています。
その全てが「イノベーション」だと自分から断言するのは憚られるのですが、
我々にとっても、ご一緒させて頂いている相手方にとっても、様々な大きな変化をもたらしたと言える事業も数多くあります。
その多くが継続的なもので、「成功」という結果がどの段階にあるかも見極めづらいですが、経験的に、やはり成果をあげたと言えるものには「共通点」があります。
それこそが、事業主体の方々が”野心”を持っていることなんです。

”野心”というと、個人的な利益だけをずる賢く追い求める”下心”のような印象がありますが、
当然、この場合はそうではありません。もちろん違法性も、所属組織への背任性も皆無です。それらをクリアーした上で、やはりそこには確実に、組織人の立場を超えた、”野心”と表現したくなる強いパッションがあります。
組織内にいても、大きなことを成し遂げる人はほぼ確実に、そこに自分自信の将来やステップ、更にはもっと大きな”夢”を描いているのです。
そして、それが所属する組織の持つ過去のしがらみや、既成概念を突破し、かつてない成果や実績を生み出す原動力となります。
自分がご一緒させて頂いた多くの事業は、ある意味そういう方との出会いの賜物でした。
自分自身がそういう方に引っ張られる形で進めた事業には、やはり大きな「やりがい」や「成果」がありました。
これまで幸運にもそういう方々に出会えたことは、自分にとっては非常に大きな財産ですし、感謝の気持ちしかありません。

人生100年時代に求められる”野心”

とはいえ、特に一従業員という立場の場合、そういう”野心”を持っている事自体を、
あまり表面に出しすぎると、かえって動きづらかったのは確かです。
しかしここ数年、いやもっと言えばこの数ヶ月で、その環境が大きく様変わりしているような気がします。

つまり、大企業が「終身雇用はなくなる」と公言する時代になり、キャリアの終着点ではなくなったことが、
いい意味でこの”個人的野心”を、大いに歓迎する環境へと急速に変化しているのです。

それでも「やはり会社の利益と私心は分けないと…」と思う人もいるかも知れません。
しかし、これは自分も経営者の端くれとして、かなり確信をもって想像できます。
今やどんな大企業でも、そのくらいの”野心”をもつ人材を、心の底から求めているのです。
逆にそういう人材をいかに引き寄せられるかが、これからの企業や法人、自治体すらも「生き残り」の鍵になっているのです。
だからこそ、経営者や組織のリーダーが、「オープンイノベーション」に走るのだとも言えるのではないでしょうか。

同時に「働き方改革」を進める必要がある時代です。
一定のルールをしっかり守りつつ、生産性を上げるというプロセスには、
個々の意欲やパッションを削ぎかねないというリスクも併存します。

会社や組織のためだけに”その仕事”をやるのではなく、その先を見据えた意欲を持つ人のほうが
大きな変革をもたらす可能性が高いと考えるのは、むしろ自然だと思います。
イノベーションという視点では、ある意味ついに個人と組織の利害が一致する時代が到来したとも言えるかもしれません。

地方創生とオープンイノベーションの親和性

自治体は当然ですが、様々な業種の一般企業でも、実は「地方創生」をテーマにした新規事業を考えていることは少なくありません。
しかも「地方」や「地域」というテーマの性質上、「共創」意識は不可欠です。「
地方創生」は「オープンイノベーション」でしか成し得ないといっても過言ではありません。
この分野の専門で行こうと決めた我々にとっても、更に多くの事業者が参入することを期待せずにいられません。

例えば「自動車」関連企業。都会に比べて地方の方が自動車保有率が格段に高いわけですから、
地方に人口が移れば移るほどメリットを享受するシナリオが、これほど描きやすい分野はありません。
しかも自動運転MAASと言われるイノベーション分野も、地域の課題解決にはうってつけです。

例えば、テレビやラジオ、新聞などのマスコミ業界
地方新聞や、地方放送局などのビジネスモデルの改革は、どこも待ったなしの状況です。
自分はこうした企業は、少なからず「地方商社」的な事業に転換していくしか無いと考えます。

そして、例えば金融事業者
地方銀行は、自社の口座にお年寄りの預金が留保されている今、次の手を打たなければと、どこも必死に次の手を模索しています。
既存の大手金融機関ですら、各地に張り巡らせた地域ネットワークを活かす事業を考えているはずです。

もっと言えば、数万人という規模感の従業員を抱える大企業は、業種業態によらず全て「地方創生」を、新規事業の視野に入れる可能性があります。
なぜなら、その人員を将来全員を抱え続ける選択肢がなくなった今、単に「リストラ」するだけなのか、それとも「希望が持てる次のステップを用意できるか」によって
これから有能な人材が獲得できるか否かに影響してくるからです。
その選択肢として「地方」は欠かせないはずです。
そしてそうした人材を、どの地域も求めているのです。

そういう観点から見ると、この「地方創生業界」、或いは「地域共創産業」には、まさに無限の可能性があります。
私達もそういうテーマを真剣に考える企業や自治体との出会いを、これからも追い求めて行きたいと思います。

文:ネイティブ倉重

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【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。