ある日の午前中、嶺北高校の寮・塾複合施設「とまり木」から、熱を帯びた議論の声が響いていました。
ホワイトボードを囲むのは、寮で暮らす生徒たちと、数名の大人たち。彼らが向き合っているのは、一本の短い動画です。
これは、彼ら自身の日常である「とまり木」での暮らしを、これから入ってくる新入生に向けてInstagramで発信するためのもの。
しかし、ここは単に「バズる動画の作り方」を教える場ではありません。
画面の裏側にある「誰かに届けたい」という純粋な想いを探求する、特別な授業が始まろうとしていました。
「誰のためか」を問い続けるプロの視点

「このシーンが一体何のために存在するのか、誰のために必要なのかを考えるんです」
この日の講師役を務めるのは、SNSでの情報発信において数々の実績を持つプロのクリエイター。彼の話は、単なるアプリの操作説明やテクニック論では終わりません。
「視聴者さんのハートを掴み続けるのって、結局は『人間性』だと思ってるんですよね」
例えば、画面に出す「テロップ(字幕)」一つとっても哲学があります。言葉が発せられるコンマ数秒前に、あえて文字を表示させる。それは「視聴者さんの脳が考える負担を、いかに減らすか」という徹底した配慮の表れです。
ストレスなく伝えたい内容に没入してもらう。それは、受け手への深い「思いやり」から生まれる技術でした。
「熱量がないと、10年なんて続けられない」。プロの重みのある言葉は、生徒たちの心に深く刻み込まれていきます。
一本の動画から生まれる、無数の対話
この日の題材は、生徒たちが自分たちで撮影した「寮の食事シーン」の動画。
新しく寮に入ってくる後輩たちへ、食事のルールや一連の流れを分かりやすく伝えるのが目的です。
「『ご飯は好きなだけよそっていい』って伝わると、嬉しいかも」
「『好きな席に座っていい』っていうのも、新入生には安心材料になるよね」
生徒たちは、右も左も分からなかった1年前の自分を思い出しながら、新入生の気持ちになって次々と意見を出し合います。自分たちが作った映像を再生し、止め、また議論する。ホワイトボードは、あっという間に色とりどりのマーカーで埋め尽くされていきました。
「このプロセスがすごくいい」。講師は、生徒たちの活発な対話に目を細めます。
一つの映像を前にして、「誰に」「何を」「どう伝えるか」を真剣に考える。その時間こそが、何よりも価値のある学びなのです。
「下膳」に込めた、見えない相手への想像力

議論が最も白熱したのは、食べ終わった食器を片付ける「下膳」のシーンでした。
当初は、「食べ終わったら片付けましょう」というシンプルなテロップを入れるだけの予定でした。しかし、一人の生徒が口を開きます。
「同じ種類のお皿を重ねて片付ける、っていうルールも伝えた方がいいんじゃないかな」
なぜなら、その方が厨房で働く給食スタッフの方々が、後片付けをしやすいから。
その一言で、場の空気が変わりました。それは、単なるルール説明の枠を超えた視点です。映像には直接映らない、その先にいる「働く人」への想像力から生まれたアイデアでした。
「それ、すごくいいね。テロップだけじゃなくて、ナレーションでも伝えようか」
「寮食スタッフさんが片付けやすいように、ご協力お願いします」
そんな一文を添えるだけで、動画はただの案内から、共同生活を営む上での温かいメッセージへと昇華します。情報ではなく、思いやりを伝える。生徒たちはその瞬間、「伝える」ことの本当の意味を掴んだようでした。
熱量だけが、未来を拓く
この日、生徒たちが学んだのは動画編集の技術だけではありません。
自分たちの言葉や映像が、誰かの心を動かし、行動を変える力を持つこと。そして、その根底には、相手を思う「想像力」と「熱量」が不可欠だということです。
彼らがこれから「とまり木」のInstagramで紡いでいく物語は、きっと嶺北という土地の温かさを、まっすぐに届けてくれるはずです。
小さな教室で生まれた熱量が、やがて大きな渦となって未来を創っていく。そんな確かな予感が、そこには満ちていました。
暮らしそのものが学びになる。嶺北高校魅力化プロジェクト

今回の動画制作ワークショップの舞台となった寮・塾複合施設「とまり木」は、嶺北高校魅力化プロジェクトの心臓部とも言える場所です。
ここでは、単なる「寝食の場」や「受験勉強の場」を超え、日々の暮らしの中に実践的な学びが溶け込んでいます。
第一線のプロから学ぶ: 今回のクリエイターのように、社会の第一線で活躍するプロフェッショナルと日常的に対話できる環境。
「伝える力」の実践: 寮のルール作りからSNSでの情報発信まで、生徒自身が主体となって考え、形にするプロジェクト型学習。
多様な価値観との共同生活: 全国の様々な地域から集まった仲間と寝食を共にし、「見えない相手への想像力」を育む日々。
「自分の暮らす場所の魅力を、自分の言葉でどう伝えるか」。
この問いに本気で向き合う3年間は、生徒たちにとって一生モノの財産になります。
彼らが実際に制作した動画や、日々の「とまり木」での温かい暮らしぶりは、ぜひ以下のサイトやSNSからご覧ください。
日々の生徒たちの挑戦やイベント情報を発信中!
上記をクリック、または「嶺北高校魅力化プロジェクト」で検索!
