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過去最高の入場者数
『第8回尾道映画祭2025』無事終了いたしました。
1月24日(金)から1月26日(日) 3日間の総入場者数が 6,215人 (含:有料無料イベント)。
過去最高の入場者数を記録することができました。実行委員の一人として厚く御礼申し上げます。
尾道映画祭は2017年3月、地域文化と映画産業の振興を目的に産声をあげました。私自身は、2021年2月から参加し5回目となるのですが、今回の映画祭は様々な点で、これまでのものから一段上のステージにあがったイベントになったと感じました。一方で、今後の課題も見えてきており、記事にすることにしました。
※第8回と、過去7回の尾道映画祭ポスター
マーケティング視点
会社経営、イベント運営などにはマーケティングの視点が必須だと言われます。「マーケティング=経営」という言葉を耳にするぐらいマーケティングは重要です。今回の「尾道映画祭」は、何が良くて、何が足りなかったのかをマーケティング分析ツールである4P分析<Product(商品・サービス)、Price(値段)、Place(場所)、Promotion(宣伝)>で振り返り、今後に活かしたいと考えました。文章の中には硬い表現もありますが、内容は「尾道映画祭」の振り返りですので、気軽に読んでいただけると幸いです。
【Product(商品・サービス)】
映画祭の商品といえば、やはり“映画”そのものだと言えます。
今回、『PERFECT DAYS』『日本殉情伝 おかしなふたりものくるほしきひとびとの群』など、尾道にまつわる映画を含め10作品。『UAライブ』『居島一平シネ漫談』『大林監督ポスター展、大林千茱萸トークショー』『若手育成プログラム』『尾道映画祭シンポジウム』『尾道のまち歩きツアー』など、数々の有料・無料イベントを街なかで開催。上映する映画すべてに、監督、俳優さんらをお呼びしトークショーを企画しました。役所広司さん、三浦友和さんをはじめとする20名を超える錚々たるスターが参加してくださったことは、とても嬉しいことでした。
今回の映画祭はコンテンツ力、つまり映画作品、イベント、ゲストに牽引されました。作品のアイデアを出していただいた実行委員、そして実際に招聘する力は、尾道映画祭メンバーならではの大きな資産だと感じています。みんな、凄いです!!
※追加で『緑色音楽』村上虹郎さん、『東京ランドマーク』柾賢志さんにも参加いただきました。
【Price(値段)】
映画の入場料が、一般前売り1,500円、当日1,800円。『犬王』『おかしなふたり』は、小学生無料としました。今回の映画祭は、おかげさまで上映作品10作品中7作品が、前売り券完売(当日券なし)となり、7作品は結果的に1,500円での販売となりました。映画が鑑賞出来て、そして役者さんのトークショーが見られて、この金額(1,500円)は手ごろに感じていただいたのだと思います。映画祭の主催が「NPO法人プラットフォーム・おのみち」「尾道映画祭実行委員会」という非営利の団体であるがゆえに、この価格設定が実現できたと思うと同時に、より良い顧客サービスを提供するに、この金額が妥当かは検討の余地があると感じています。
また、今回、協賛社の獲得に力をいれました。豪華な作品・ゲストに魅力を感じて頂き、数多くの協賛を賜りました。ご協賛いただいた皆様、感謝申し上げます。オープニング動画、ホームページでの協賛表示のほか、UAライブでのマルシェ展開。あるいは、映画上映前の「健康体操教室」など、新しい協賛メリットも提案できました。来年は、さらに協賛社も観客もが喜んでいただけるものを、考え出したいと思います。
また、尾道映画祭実行委員会では、常に尾道への経済効果を気にしています。今回、延べ6,000人を超える動員をしましたが、人の数だけでなく、どれだけ尾道の各店舗、宿泊、あるいは交通機関ほかへの経済波及効果があったか、いま時点では正確な物はでておりませんが、常に意識している点です。今回、1月に開催している理由の一つには、1月が尾道の観光閑散期にあたるという点も我々の中にはありました。町全体が潤うイベントにしたいと思っています。
※『PERFECTDAYS』ほか7作品が、完売、満員御礼。しまなみ交流館も満席となりました。
※開会式と閉会式、司会を務めさせていただきました(右が筆者)
※浄泉寺での『UA ライブ』マルシェも開催
【Place(場所)】
映画の街、尾道での映画祭。尾道だから来てくださる。スケジュールをギリギリまで調整して来て下さったゲストがどれだけ多かったことか。尾道には引き寄せる力があるんだと改めて感じました。
ある俳優は「尾道は町そのものが、映画のセットのようだ」と語り、ある監督は時間があれば尾道を散策してロケハン(事前取材)していました。映画祭の翌日、某監督は早速、尾道の風景をカメラにおさめていましたよ。
そして、『シネマ尾道』という、尾道の映画の灯を絶やさない素敵な映画館があることも忘れてはいけません。多くの役者が、『シネマ尾道』について熱く語ります。この映画館があるから、尾道が映画人の寄り添える場所になっていると強く感じました。
また、今回は、映画祭自体を「点」ではなく「面」でとらえる。つまり会場を、JR尾道駅界隈(しまなみ交流館、シネマ尾道)から踏み出して、関連イベントを浄泉寺、まちなか瓶か交流館BANK、U2、山手(まち歩きツアー)、さらには尾道商店街でコラボ企画を実施するなど、尾道をしっかり歩いてもらいたい、体感してもらいたいと考えました。BANKでの、大林宣彦監督ポスター展は、土曜日が700人、日曜日が1,500人の動員を実現し、大きな手応えを感じています。
※“大林宣彦監督作品 映画ポスター展”with 大林千茱萸(ちぐみ)&志田一穂トークショー
※「映画になる街・尾道のまち歩きツアー」(主催:尾道空き家再生プロジェクト)
【Promotion(宣伝)】
ケーブルテレビ「ちゅピCOM尾道」、広島の地上波テレビ各局、ラジオ各局、そして尾道新聞はじめ大手新聞社、また経済誌、情報誌の皆さんには、毎回大変お世話になっております。
今回、新しいこととして特筆すべきは、JR西日本さんの協力です。前職(読売テレビ)時代に、私自身がJR西日本さんの営業担当だったご縁もあり、今回、JR西日本さんの本社にかけあいました。尾道に、京阪神エリアから来ていただきたいという我々の想いと、尾道に送客することで、鉄道収入のアップ、地方活性につながるというJRさんの想いが合致し、なんとJR大阪駅をはじめとする大阪の主要駅に、尾道映画祭のデジタルサイネージ広告、そしてポスターを掲示してくださいました。また、JR広島支社管轄では、電車内の中づりを掲出いただきました。広告換算すると1,000万円超えるのではないかと思う量で、本当に大きな協力をいただきました。有難うございました。
また、尾道本通り商店街とのコラボでは、商店街の割引を記載したチラシを有料観客に配布。映画祭が終了して1週間後の2月2日まで有効とし、商店街を訪れ買い回りしていただく施策も展開しています。絵のまち通り商店街では、フラッグの掲出もご協力いただきました。さらに、映画祭期間中には、関連イベントを実施している場所に、のぼりをたてるなど新しい試みも展開しました。
※RCCラジオ『えんまん』プロモーション出演させていただきました。
そして、現在の宣伝ツールといえばSNS活用です。今回、東京でバリバリ活躍して尾道に移住した、若手デザイナーが、ポップで可愛いSNSをどんどんUPしてくれました。また、オープニング動画は、尾道の風景に新世代シンガーソングライター、音楽プロデューサー”snowy“さんが、楽曲を提供。とっても素敵な映像になっています。前職のテレビ局時代から、宣伝はどれだけやっても邪魔にならないと教えられてきましたが、次回以降も貪欲に攻めていきたいと思います。
https://www.instagram.com/onomichifilmfestival/
https://www.facebook.com/onomichifilmfestival
組織マネジメント
ここまでマーケティング視点で4P分析をしながら、私自身の頭を整理している側面もあるのですが、今回、運営に携わってくださった皆さん、本当に頑張ってくれました。お疲れさまでした。これだけチケツトが完売している中で、いかにスムーズにお客さんに入場していただけるか、何度もシミュレーションを重ねました。大きなトラブルはなかったと聞いておりますが、今もメッセンジャーグループでは次回に向けた反省点合戦を繰り広げており、頼もしい限りです。
この映画祭は、凡そ半年前から、2週間に1度の会議を行います。私が進行を務める訳ですが、心がけているのはディスカッションの時間をしっかりとる為に会議に向けた準備を怠らないことです。そして、デジタルのビジネスツールを活用し、時間短縮に努めること、つまり働き方改革を意識しています。
2021年に私が参画してから、チャットツール「SLACK」を導入しました。このことで、格段に作業が楽になった部分もありますが、慣れていない分、扱いが難しい点もあり、メッセンジャー、LINEも並行して使います。会議はZOOMとリアルのハイブリッド開催で、参加しやすい環境づくりにも努めています。みんながボランティアで参加しているからこそ、時間が大事であると考えています。会議をさっさと終えて、早く飲みに行きたいだけかもしれませんが…。
この映画祭、決して忘れてはいけないのが、大林宣彦監督作品を支えた皆さんの尾道の皆さんの存在です。大林組の皆さんが、ある意味この映画祭をたちあげ現在に繋がっています。そして、私もその教えを受け、参加させていただいている訳ですが、私ですら55歳です。若者たちへのバトンの継承を考えなければいけない時期だと感じました。ある役者さんが私に「若者が活躍できる、映画に携われるような街にしてほしい」と熱く語りかけてくれたことで、その想いは強くなっています。今回、将来映画界を目指す学生が、スタッフとして手伝ってくれました。30代でバリバリ働いてくれた実行委員スタッフもいます。環境は整いつつあり頼もしく感じています。
※大林宣彦監督率いる大林組と尾道の関係は今も続いています(引用:尾道新聞)
また、尾道市立大学、福山大学の学生が出品する『若手育成プログラム』を開催し、『犬王』総作画監督の亀田祥倫さん(尾道市立大卒業)とは座談会も開催しました。これまでにない良い取組だったと感じています。
※「若手育成プログラム」に出品した、尾道市立大学生、福山大学生
※大学生と座談する、亀田祥倫『犬王』総作画監督
無限に拡がる、尾道の可能性
「日本から海外へのコンテンツ輸出は年4.7兆円で、半導体(5.7兆円)や鉄鋼(5.1兆円)にほぼ匹敵します。飛躍的な成長が実現すれば、いずれは自動車(13兆円)さえも上回る存在になり、日本の稼ぎ頭になるかもしれません」
これは、昨年8月18日、日本経済新聞の記事で、映画・アニメ・ゲームが、いかに世界に輸出されているかを表したものです。
尾道は、『東京物語』、大林宣彦監督作品をはじめ数々の映画作品、また今回上映した『蒼穹のファフナー』などのアニメ作品を生み出してきました。その聖地巡礼として、ファンが尾道を訪れ、尾道の経済に貢献してくださっています。
昨年、過去最高の外国人客が来日し、インバウンドが活況を呈しておるのはご承知のとおりで、尾道にも多くの外国人が来ています。尾道がもつ強みを発信し、しっかり尾道の経済活動につなげていき、ひいては尾道の発展につなげていくことこそが使命だと感じています。その一助になりたいとの思いを抱きながら、私自身、今後もしっかり精進してまいります。
最後に、尾道映画祭に関係する、すべての皆さんに感謝を申し上げます。
また、ここまで長文を読んでいただき誠に有難うございました。
NPO法人プラットフォーム・おのみち 理事
尾道映画祭実行委員 亀田年保