音楽、IT、そして豆腐屋へ。キャリアの根っこは同じだった

東京でIT企業を経営し、国内外で幅広いキャリアを築いてきた大東洋克さん。音楽の道から始まり、IT、スタートアップ支援、メディア経営と、その経歴は一見するとバラバラに見えます。しかし大東さん自身は「根幹は全部同じ」と断言します。

「音楽をやるのも、会社を経営するのも、根本の原理原則は同じ。豆腐を作ろうが、肉を切ろうが、ITをやろうが、誰にどんな価値を届けるのかを考える。その本質は変わりません」

そんな大東さんが今、北海道下川町で豆腐店と精肉店を営んでいます。場所に縛られない働き方を実践し、都会か田舎かという二項対立に興味がなかった彼が、なぜこの北の町に根を下ろすことを選んだのでしょうか。そこには、典型的な移住ストーリーとはひと味違う、挑戦の現実と面白さがありました。

きっかけは「地域活性」ではなかった

大東さんが下川町へ移り住んだ直接のきっかけは、壮大な地域貢献の理念ではなく、「子どもを自然豊かな環境で育てたい」というシンプルな親心でした。コロナ禍以前からリモートワーク中心だったため、仕事はどこでもできる。その感覚で選んだ下川での暮らしが、大東さんに新たな視点をもたらします。

「東京から地域活性化を語っても戯言に聞こえる。自分の半径5メートル以内で起こっていることから始めないと、本気で関心を持ち続けるのは難しい」

地域を「救おう」として来たわけではない。しかし、暮らす中で見えてきた「まちの店がなくなる」という現実が、大東さんを新たな挑戦へと突き動かしました。

「時代遅れ」の一言が、僕の心に火をつけた

最初の転機は、町内の豆腐店の事業承継話でした。当初の関心は「まちの風景として店を残したい」というもの。しかし、先代から投げかけられた一言が、大東さんの気持ちを決定づけます。

「手づくりの豆腐は時代遅れ。工場でスイッチひとつでできる時代だから、店は別のことに使った方がいい」

多くの人が諦めるであろうこの言葉に、大東さんは逆に「スイッチが入った」と言います。

「誰にでもできる効率の良いことには興味がない。みんながやらない、手間をかけてでも挑戦することにこそ価値があると思ったんです」

ほぼ同時期に、町内の精肉店も後継者を探していると知ります。資金調達、IT活用、情報発信。異なる分野のスキルを組み合わせ、事業として再構築できるのは自分しかいない。その使命感から、2店舗同時承継という前代未聞の挑戦に踏み出すことを決意しました。もちろん、地域おこし協力隊だった澁谷さんという頼れるパートナーの存在も、その決断を後押ししてくれました。

ITも豆腐屋も同じ。お客さんの顔が見える喜び

事業承継は、技術を学び、設備を更新し、オペレーションを組む、地道な作業の連続でした。しかし、IT業界の最前線で培ってきた「顧客の課題を解決し、価値を届ける」という本質的な考え方は、豆腐屋でも肉屋でもまったく同じように通用したのです。

そして、都市部のビジネスにはない魅力にも気づきました。

「『このお豆腐じゃないとダメなの』と言ってくれるお客さんがいる。ITの世界では数字やデータで見ていたものが、ここでは生身の反応として返ってくる。その手触り感が、何よりのやりがいになっています」

今、大東さんは豆腐づくりで出るおからを使った商品開発や、地域の資源である鹿肉の活用、さらには子どもたちの居場所にもなるような新しい「場」づくりも構想しています。事業承継は、単に店を引き継ぐだけでなく、地域の未来を編集していく創造的な仕事だと、その背中は語ります。

「気合いを入れすぎない」。それが、挑戦を続けるコツ

地方での挑戦は、人生をかけた一大決心のように語られがちです。しかし大東さんは、少し肩の力を抜いていこうと話します。

「『人生かけて頑張るぞ』と意気込むと、どこかで疲弊してしまう。ふらっと来た人を、周りが支える。その方が、持続性が高いと思うんです」

特別な誰かでなくてもいい。これまでの経験をどうつなぎ、目の前の人や場所に関心を持つか。大東さんの挑戦は、地域で何かを始めたいと願う私たちの背中を、そっと押してくれます。

必要なのは完璧な計画ではなく、まずは一歩、飛び込んでみることなのかもしれません。

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