「純米・無ろ過・生・原酒」。本当においしい日本酒で、日本酒市場そのものの拡大を目指す

記事冒頭でも述べた通り、日本酒業界がいま最も課題としているのは、若者の日本酒離れに起因した「大幅な需要の減少」です。しかし、日本酒応援団が造るのは「日本酒カクテル」のような、わかりやすく今風のお酒ではありません。地元産の米、地元の水、地元らしい風味に徹底的にこだわり抜き自然なあまみや豊かな香りが楽しめる「元来の日本酒らしい」日本酒。あえて地域の良さを活かし、本物志向にこだわる理由は、「若者は日本酒離れしているのではなく、『飲まず嫌い』なのだ」という、日本酒応援団・代表取締役・古原さんの考えがあります。

日本酒応援団・代表取締役・古原さん

「僕自身は体育会系の野球部だったこともあり、“ポンシュ”(日本酒)って、工業的に安価で作られているお酒で先輩に一気させられて吐いた思い出しかない。もともとはあまり好きじゃなかったんですよね。でも、社会人になって友達に日本酒専門店に連れて行ってもらってはじめて、ああちゃんと作られている日本酒ははこんなに飲みやすくておいしいんだ、今まで飲んだものとは全然違うんだと衝撃を受けました。若者の日本酒離れって、ほとんどが「飲まず嫌い」だと思っているんです。だから、かつての自分がそうだったように、質の良い日本酒を作って広めれば、もう一度市場そのものを大きくできるはず。」

その想いを反映してか、日本酒応援団では「純米・無ろ過・生・原酒」という、市場にあまり出回らない希少な酒の製法にこだわっています。「純米」は、醸造用のアルコールを一切加えないという意味。「無ろ過」は、日本酒を透明にするための炭素ろ過をしないこと。「生」は火入れ殺菌をしない。「原酒」はアルコール度数を調整するために水で薄めない。

この4つが組み合わさったお酒というのは加工を加えてない分豊かな風味がそのまま残る一方、とにかくデリケートで管理が難しいため、市場には1%も出回っていないと言われています。普通の俗に言う“安酒”と呼ばれるような日本酒が干物だとすると、「純米・無ろ過・生・原酒」の日本酒は鮮魚のようなものと表現できるかもしれません。いくら付加価値が高いからといえ、一つの酒蔵が大量に生産するにはリスクが高すぎる側面があります。

普通の酒蔵が、全力でデリケートなお酒を造り続けるのはかなりハイリスクですが、日本酒応援団の場合は、ファブレスの立場をとり、全国の酒蔵と協力しながらこの貴重な日本酒を生産しています。全国で生産しているため、各酒蔵にとっては「純米・無ろ過・生・原酒」が総生産量のほんの一部であっても、日本酒応援団全体としてはそれなりの生産量になる仕組みです。しかも、地域ごとに全く異なる味わいとなるので、そのまま味の違いが地域のブランディングにもなります。

現在ある4銘柄のうちの1つ、大分県国東市で造る「KUNISAKI」。

製造業での起業はハードルが高いと思われがちです。そのような状況下で、常識にとらわれず、技術力は非常に高いものの有休資産を保有する酒蔵に着目し、ファブレスのモデルを応用したことが日本酒応援団の強みと言えるでしょう。日本酒と同じく生産量が大きく減少したビールも、近年の地ビールブームなどで生産量の低下も下げ止まりを見せつつあります。嗜好性の多様化をうまく捉えて訴求し、どれだけ新規の日本酒ユーザーを増やせるのかが腕の見せどころと言えそうです。

取材・文・撮影:編集部

●古原忠直

東京大学卒、スタンフォード大学MBA卒。三菱商事、東京海上キャピタルなどで日本、米国、中国で11年間のベンチャー投資・事業開発を経験し、起業。祖母の実家が大分で造り酒屋を営んでいた(現在は廃蔵)ことや、海外経験が豊富なゆえに気付く日本の良さを世界に広めたいという思いが強く、日本酒応援団を立ち上げる。

●日本酒応援団株式会社 会社概要

  • 所在地:東京都品川区上大崎2-5-10
  • 設 立:2015年7月
  • 代表取締役:古原忠直
  • 事業内容:日本酒のあるライフスタイルを、世界中に」というミッションのもと、「田植えから世界販売まで」を行う日本酒に特化したベンチャー企業。全国の酒蔵と組み、社員全員が田植えから酒造りまでの醸造サポートを行いながら、自社ブランドの日本酒を企画・販売。現在は島根、石川、大分、埼玉の4蔵で醸造し、今後全国30蔵との協業を予定している。
  • 日本酒応援団 コーポレートサイト