「無人の本屋さん」と聞くと、どのようなイメージを抱きますか。本を勝手に持っていかれないのだろうかとか、購入はどのように行うのだろうかとか、お店はどうやって手入れされるのかといったように、様々な疑問が浮かんできます。

実際にそんな本屋さんが宮崎県に誕生し、話題になっています。

「無人古本書店 ほん、と」が宮崎県日南市の油津商店街に誕生

宮崎県日南市の油津商店街。この商店街は、地方創生の成功事例として取り上げられることも多く、ご存知の方も多いでしょう。シャッター商店街となっていた状況からの劇的な再生と、県外からのベンチャー企業の誘致などで、話題になりました。

そんな商店街に2019年8月にオープンしたのが「無人古本書店 ほん、と」です。店内の本棚には、地域の内外から贈られた古本が並び、日南市の特産品である飫肥杉の什器が設置されています。

無人の書店という形態は、東京都武蔵野市に「BOOK ROAD」を参考にし、カプセルトイを用意し、客は代金を入れて出てきた袋に本を入れて持ち帰ることで会計を行うという仕組みで運営されています。

地域おこし協力隊が立ち上げ。地域でも話題に

「 ほん、と」を立ち上げたのは、日南市に地域おこし協力隊として赴任した杉本恭佑さん。2019年いっぱいで地域おこし協力隊を卒業し、現在は個人事業主として「 ほん、と」の店長業務や、油津商店街でのイベントなどの取り組みを仕切っています。

立ち上げた背景には、「ご飯を食べて帰るだけ」となっている商店街に、立ち寄って滞在できるような場所があればという想いでした。無人の古本屋という形態が話題になり、ローカルのテレビや新聞等で取り上げられるなど、広く知られるようになっています。

オープンから半年を迎え、どのような変化があったのかを店長の杉本さんにお伺いしました。

オープンから半年。変わったこと、これからのこと

— 8月に正式オープンしてから半年になりますが、どのような感想をお持ちですか。

杉本さん(以下、杉本):良い空間ができていると思っています。自分自身がけっこう忙しい時間も多いので、本棚の手入れをしている時間が落ち着く時間にもなっています。

本棚を整理をしたり、掃除をしたりしながら、自分の整理がつく時間になっていますね。

本を手入れする杉本さん

— 訪れるお客さんの反応はどうですか。

杉本:無人なのでお客さんと直接会うわけではないのですが、ぼく以外の誰かにとっても心地良い場所になっているのではないかと思いますね。地元の学生の子が通ってくれているようで、「落ち着きたい時に来るんです」という話も聞きます。

— 売上も順調なのですか。

杉本:変動が激しいです!(笑)。本の入れ替えがあるかないか等で、売上が上下します。手をかけていると売上は伸びるんだなということはわかってきました。2020年は楽しんでもらえる仕掛けをつくりながら売上を伸ばしていきたいと思っています。

— 無人の書店としてオープンし、お客さんとの交流はありますか。

杉本:お客さんの顔を積極的に見ようとはしていないんです。無人だからこその良さがあると思っていて、誰かいるな、集中して本を読んでいるなという姿が見えたら、また後で来ようと入らなかったりもしますね。

けれど、お店にある一言コメントボードでたくさんの声をいただくので、つながっている感じはありますね。もう200枚を超えるくらいあるはずです。

— まわりからの反応はどうでしょうか。

杉本:すごく良いですね。文化的な施設がなかったところにできたのでうれしいという声や、当初から狙っていたように、ご飯を食べて、「ほん、と」に立ち寄ってからカフェに行くという人の流れもできています。

今後も、経営がきちんと回るように工夫しながらいろいろやっていきたいと考えています。雑貨を売ったり、コーヒーが飲めるようにしたりということを考えていますね。

ここをきっかけに何かをやってみようをつくる

店内のメッセージカード

— 印象に残っていることはありますか。

杉本:高校生が読書会を企画してくれたんです。「本屋さんができたから、本を読む会がしたい」という相談をもらって、それが実現しました。

「ほん、と」がきっかけでアクションにつながったのが嬉しくて、やってみたいが生まれるききっかけを作りたいと思っているので、とても印象的でした。

— 今後の取組や、描いていることはどのようなものがありますか。

杉本:商店街の中にあって、無人だからできることや、商店街ならではで工夫ができることは何かを考えて実行していきたいと考えています。従来の商店が成り立ち辛くなっているからこそ、こういう工夫をすればこうなるということを示していくことにチャレンジしたいと思います。

ここを見たときに、本屋に限らず、こういうかたちでできるんだとヒントにしてもらったり、好きなことをこうやって実現できるんだということを示せると良いと思っています。

「自分入り」の取り組みで、まちに新しい表情をつくる

店内にはオリジナルグッズも。

杉本さんは、商店街に本屋がないから作ろうというところからスタートしたわけではありません。訪れる人が商店街を回遊することにつながり、自分自身がリラックスできるような時間を過ごせる場所で、工夫によって成果がでるようなところ・・・そんなふうに、大事にしたいことや、狙いたいことを定めながら、手段としての無人の古本屋さんができあがっています。

ここで大切なのは、取り組もうと思っていることが「自分入りかどうか」ということでしょう。ニーズがあるからとか、これをしなければならないという義務感だけで、自分の想い抜きの取り組みは長続きしません。なぜなら、手を入れ続けることが億劫になっていくからです。

「ほん、と」が愛されている理由は、杉本さん自身が自分が欲しいと思う空間をつくり、そこに手を入れ続けていて、それが場の魅力となって人を惹きつけているからでしょう。だからこそ、無人であって、一言気持ちを伝えようとメッセージを記し、場を介した人と人の出会いにつながっているのです。