地方移住への関心が年々高まっています。この傾向は2019年でも衰えることはなく、調査によると地方移住への相談件数も過去最大となっています。

イベントへの参加や相談は増えているとはいえ、実際に地方移住へのハードルは高いものです。そこで、実際に住んでみたり働いてみたりしながら地方移住を検討する「お試し移住」が注目されています。

「お試し移住」相当の取り組みは全国で69実施中

「お試し移住」というのは、制度として明確に定義があるわけではありません。ニッポン移住・交流ナビに掲載されている「【2019年度自治体支援制度特集】移住・体験」という内容を見ると、全国の自治体において実施されている「お試し移住」に相当する取り組みは、69あります(※同一自治体での複数の取り組みは個別にカウント)。

どのような内容かといえば、移住に先立つお試し住宅として、家賃が安く提供されていたり、家具家電付きの物件が用意されていたり、インターネット回線やWi-Fiが完備されていることを謳うものもあります。

例えば兵庫県豊岡市では、お試し住宅のバリエーションや立地を複数用意することで、地方移住希望者のニーズにそった体験ができるように工夫されていたり、その他の自治体でも、農業体験がセットになったものや、二拠点居住に特化したものなど、様々な取り組みがあります。

総じて、「地方移住」につながるように、各地域が工夫をこらして、「お試し」しやすい環境を整えているといえます。

「地方移住を体験したい」は重要なニーズ

地方移住希望者にとって「お試し移住」は求められている制度でもあります。

総務省が地方移住を希望する方に向けて実施したアンケートを見てみましょう。(※このアンケートは、過疎地域等の農山漁村への移住に主眼が置かれているものです)

都市部住民に対して、「農山漁村地域の自治体がどのような施策を行っていれば、農山漁村地域への移住に対する不安や懸念が解消され、移住してみたいと思うようになるか」聞いたところ、

「仕事(働き口)の紹介」(34.9%)
「「お試し居住」などの移住体験」(21.1%)
「移住後の暮らしに対する支援」(20.5%)

というのが上位の項目になっています。都市部居住者の中では、地方移住を検討しているが、地方での暮らしについてリアリティをもってイメージすることが難しいということが課題になっており、その際に移住体験ができることは不安払拭につながっていることがわかります。

「お試し」を任せっきりにしないことが選ばれることにつながる

少しずつではありますが、地方移住を決断する前の準備として、「お試し移住」を選択するという割合も高くなっています。実際に、「お試し移住」から移住や、二拠点居住につながった事例も報告されるようになってきました。

「お試し移住」が注目されるようになり、より重要になると思われるのが「体験づくり」です。

現在のお試し移住の多くが、住まいなどを準備するというものになっており、あとはそこに住み、検討する側にすべてが任されているという状況です。これでは、住む側の想定や想像が「お試し移住」時にできること、やりたいことを決めることになり、極端にいえば、知ってほしいまちの魅力が知られず、まわりの人とも交流が生まれず、利便性や気温などを含めた住環境だけで判断される可能性も高まっていきます。

そこで、「お試し移住」を検討する層は、有望な移住希望者であると捉え、ニーズの聞き取りや、体験してほしい過ごし方などのプログラムを用意することが必要でしょう。

移住後に、地域の一員としてスタートするためにも、「お試し移住」をする上での「おもてなし」が求められるはずです。制度充実や、大枠の地域の魅力を訴えるだけではなく、実際に訪れてお試しをする人に、どのような体験をしてもらい、どのようなことを感じて、考えてもらうのかという視点で、体験をつくっていくことが重要だといえます。

参考:
【2019年度自治体支援制度特集】移住・体験