ー星野リゾートのリゾートづくりで、関心した点と、松山さんがもっとこうしたい、と感じられた点を具体的に教えてください。

星野リゾートは「ブランド」や「イメージ」をつくり、伝えるのがうまい。大いに勉強になりました。実際の宿泊施設やアクティビティーも、もちろん大切ですが、それを分かりやすくクリスタライズ(結晶化)しないと価値は伝わらない。それは、弊社が理念として掲げている「ディスティネーション(目的地)」をつくるという事とも相通ずる部分があります。一方で、料飲関連はまだまだやれることはあると感じていました。我々は、食もディスティネーションの重要な要素と捉えていて、温故知新のリゾート開発ではそこにも力を入れています。料理顧問として日本料理の鹿渡省吾氏を迎え、地域の旬の食材を使った料理や、地酒の品揃え、マリアージュ(ペアリング)などにもこだわっています。

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温故知新が運営する「瀬戸内リトリート 青凪」の料理

ー独立してなおリゾート関連の仕事を続けようとするモチベーションは何でしょう。

何と言っても、リゾートづくりに関わるこの仕事が面白いからです。宿泊施設の仕事は、素直に良いものを提供し、お客様に喜んでいただけるほど、自分たちにもリターンが返ってくるという分かりやすい業界、前向きビジネスだと思います。

また、広範な知識や経験が要求されるリゾート業の難しさも、ある意味で面白さの一つです。リゾートをつくる時には、空間や建築、インテリア、ランドスケープまで含めた建築的要素、おいしい料理やお酒を提供するフード&ビバレッジビジネスの要素、アメニティやリネン、寝具などはライフスタイル産業の要素、ホテルのショップは小売業、マーケティング面は観光業の発想が求められ、また、行政とも連携した地域活性化というNPO的側面、スタッフをまとめる組織・人事制度など経営面、投資リターンの組み方は不動産・金融業に近く、多くの知識や経験が求められます。
それでいて、特にリゾートの場合は単純な成功パターンがあるわけではなく、プロジェクトごとに求められる内容が変化します。King of陸上とも言われる十種競技のような、総合的な業種だと思っています。だから飽きないんですね。

あらゆる業界にそれぞれ成功者がいますが、常に一定の割合で「いつかはホテルをやりたい」という人が出現します。宿泊業はいわば夢の業種。そして難しいから面白い。これら、リゾートや宿づくりの難問に生涯をかけてチャレンジしていきたいと考えています。

鍵はディスティネーションホテルとしてのユニークさ

ー2011年2月に温故知新を設立した直後、東日本大震災が起こりました。その時に考えたこと、変化はありますか。

震災前までは「日本文化の再生」という文脈で考えてました。日本の伝統的な工芸や建築、文化を守り、発展させていこうというものです。設立時には、温故知新のコンセプトにも「温泉がある国の幸せ」といった、日本らしさを感じさせるキーワードがあった。しかし、今、私達が手掛けているリゾートや旅館は、そういった日本文化一辺倒の保守的思考ではなく、地域の良いもの、土地の特徴を生かし新しいものを作っていこうというカスタマイズ思考がベースになっています。地域の個性にスポットを当てる考え方は震災以降、特に増えてきたように感じます。

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地域におけるリゾートづくりは、その宿が「ディスティネーション(目的地)」となり、様々な人がその地域を訪れ、お金を落としていくことで、地域全体の活性化に大きく貢献している。宿の売りとして押し出すのは、アート、食、建築、地域との交流など、魅力があれば何でも良いのですが、ただ、どのようなリゾートをつくる場合でも、ユニークなものをつくりたいという思いは常に持っています。そうでなければ、私達のような後発ベンチャーに勝ち目はないし、楽しさもない。日本初や世界初といった新しい要素を取り込んだ宿づくりを目指しています。

ー最近では、地域の需要や宿泊者のライフスタイルに合わせた様々な形態の宿泊施設ができていますが、そこからアイデアを得ることやライバルだと考える業態はありますか。