
大熊町にある「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」は、バイオエタノールの中でもセルロースエタノールと呼ばれる新しい自動車用の燃料づくりに挑戦しています。
2024年11月に竣工したこの事業所には、県外から大熊町・浜通りに移住した方々が働いており、植物の茎や葉からバイオエタノール燃料を製造するという、難しい技術開発に挑んでいます。今回は、事業所で働く3名にお話を伺い、どんなお仕事をされているのか、そしてなぜ浜通りや大熊に移住したのかお話を伺いました。
バイオエタノールの研究・実証拠点「raBit」
環境にやさしい燃料として注目されている、バイオエタノール。これまではトウモロコシやサトウキビなどを原料に製造されていますが、食べ物が原料となっていることが食料不足や食料価格の高騰などにつながるとして課題となっていました。そこで、食べ物と競合しない植物や農業残渣などを活用する「セルロースエタノール」の研究が世界中で進められています。大熊町にある「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」はそのセルロースエタノールの安定・安全・効率的な生産方法を確立するために設立された研究拠点です。略称は、「raBit(ラビット)」。ロゴには略称に合わせて、ウサギのマークが使われています。

事業所は町が整備した工業団地に建っています。バイオエタノールの原料には近隣の浪江町で育てられた「ソルガム」というイネ科の植物などが使われ、植物の葉や茎からエタノールを取り出す研究が行われており、実際にバイオエタノールも製造されています。

raBitには、ENEOS株式会社、スズキ株式会社、株式会社SUBARU、ダイハツ工業株式会社、トヨタ自動車株式会社、豊田通商株式会社、マツダ株式会社(五十音順)の7社が組合員として参画しており、自動車用燃料のカーボンニュートラル化を推進するため、大熊町で開発された技術を、日本国内のみならず広く世界に向けて技術を提供し、世界にバイオエタノ―ルの利用を広げていくことが期待されています。
大熊発の技術を、世界に広げたい
技術職として現場を支える加藤宗一郎さんは、埼玉県の出身。自動車メーカーの技術職を経て、直近は北海道のベンチャー企業で働いていました。その会社が南相馬市に拠点を設けることになり、南相馬市に移住。アウトドアが好きな加藤さんは、浜通りの環境が気に入りました。

加藤さんは「自然が豊かで海も山も近く、少し車を走らせればウィンタースポーツも楽しめます。北海道でも暮らしましたが、雪は好きだけど雪かきは大変で、雪が少ない浜通りの気候は魅力的でした」と話します。
しかし、当時働いていたベンチャー企業が南相馬市から撤退することに。加藤さんは気に入った浜通りを離れたくないと思い、自分のスキルを生かせる仕事を探し、そして見つけたのがraBitでした。
いま加藤さんが担うのは、製造工程のデータを読み解き、より安定的なバイオエタノールの製造につなげる仕事です。原料を細かくする過程や糖化、発酵などを通してエタノールを生成する過程を分析しながら製造プロセスの最適化を行っています。

加藤さんは「ここでやっているのは、例えて言うならばバイオエタノールを作るためのレシピづくり。組合員の企業の方により大きな設備でバイオエタノールを作っていただけるようなレシピを開発したい」と意気込みます。そして休日は家族で自然の中で過ごし、技術職という自分の強みをいかしながら、浜通りの暮らしを満喫しています。
ゆめの森との出会いが移住・転職につながる
福岡県から大熊町に移住した清水由維さん。3人の娘さんの教育環境を考えたことが移住のきっかけでした。そんな中、いわき市在住の友人から教えてもらったのが、学び舎ゆめの森の存在でした。ゆめの森のホームページを見た清水さんは「子どもたちの自主性を尊重する教育方針や、グローバル教育に力を入れていることに共感しました」と話します。

さらにゆめの森の体験入学やお試し住宅での移住体験を経てイメージはよりふくらみ、娘さんたちの共感も得て、大熊に移住することを決めました。
仕事については「くまジョブ」や、ふくしま12市町村移住ポータルサイトの「未来ワークふくしま」で探し、raBitの仕事が目に留まりました。技術的な仕事は未経験で工具も触ったことがない清水さんでしたが、「エネルギーの未来を作る仕事。地球温暖化などの課題に、何かしら貢献したいと考えました」とraBitで働くことを決め、2025年3月に大熊町に移住しました。
現在は事務・調達・在庫管理などを担当し、現場を支えています。工具の管理を工夫したり、何もなくて寂しかった正門横のスペースについては、工務メンバーの水野さんと協力しながら現在も花壇の整備を進めています。 清水さんにとっては未経験の仕事ではありますが、現場のメンバーと丁寧にコミュニケーションを取ることを心がけ、やりがいを感じているそうです。

また、3人の娘さんも大熊での暮らしを楽しんでいます。次女、三女はゆめの森に通っており、自分の好きなことを言いにくかったところから、「私はこれが好き」と言えるようになり、作品づくりや表現の機会を通じて、自信を育んでいく姿を頼もしく感じています。
また、高校1年生の長女はゆめの森に通えなかったことを残念がっているそうですが、ゆめの森の放課後児童クラブのスタッフとして子どもたちと触れ合ったり、町内でアルバイトを始めたりと積極的に活動しているそうです。
清水さんは「大熊は一見、不便かもしれないのですが、3人で電車でいわきに行ってみたり、その分色々な経験ができていると思います」と娘さんたちの成長を頼もしく感じています。
「メイドイン大熊」の技術で町に貢献する
事業所長の浅井秀毅さんは静岡県の出身。大手電機メーカーで長く働き、管理職として工場の責任者も経験してきました。2019年から白河市の工場に勤務する中で浜通りを訪れ、帰還困難区域の現実を目にしたことが、心に残ったと言います。「まだ復興すら始めることができない場所がありました。50代後半で定年間近でしたし、この地のお役に立てないかなと思いました。」

町の移住定住支援センターに相談したところ、raBitの仕事を紹介され、大熊町への移住を決めました。移住したのは2023年12月。事業所がまだ稼働する前で、OIC(大熊インキュベーションセンター)を拠点に準備を進めてきました。
浅井さんが目指すのは、技術の最前線を担う仲間たちが「ここで働いてよかった」と思える環境をつくること。組合企業など外部との調整、現場が前に進むための土台づくりを担い、チームの成長につなげていきたいと話します。
2025年10月にはraBitで作られたバイオエタノールを燃料に使った自動車の公道走行実験も行われました。そして国内最高峰の自動車レース「全日本スーパーフォーミュラ選手権」の2026 シーズンにおいて、全車両の燃料にraBitで作られたバイオエタノールが使われることが決まっています。

浅井さんは「大熊で生まれた技術は『メイドイン大熊』という形で発信されています。私たちの技術を世界にアピールすることで、少しでも町に貢献できたらうれしいですね」と話します。
raBitには県外から移住した人材も集い、それぞれの経験や想いを持ち寄りながら、世界最先端の研究プロジェクトを進めています。「メイドイン大熊」の技術を世界へ。環境を守りつつ、豊かな生活ができる未来へと、raBitの挑戦は続きます。
