「民泊」と呼ばれる領域が拡大の一途をたどっています。個人が自宅の空き部屋を貸し出す小規模のものから、新築の大人数に対応可能な宿泊施設まで、幅広い形態の宿泊サービスが「民泊」と呼ばれ、注目を集めています。

インバウンド観光客の増加や、地方創生による地域観光を背景に、従来の宿泊では得られなかったような体験価値を提供する宿泊施設も増えています。

今回の連載では4回にわたって、広く民泊を通じて、生き方を変えた人たちに注目し、ライフスタイルとしての民泊経営に迫ります。

いなかのおばあちゃんちのような民泊

秋田県大曲駅から自動車で10分。ここに、おばあちゃんの家にそのまま暮らすような民泊があります。家具も、仏壇も、残された状態の空き家を借り、それらを活かして民泊運営を行うのが、青柳友哉さん、有理さんご夫妻。青柳さんたちは、同居型の民泊として部屋を貸し出しています。

なぜこの場所なのかと言えば「花火が好きだから」。どのような思いで運営されているのでしょうか。

「花火が大好き」その思いで地域を眺める

東京から移住し、民泊をはじめた青柳さん一家

— この施設のこだわりなどはありますか。

青柳:仏間や縁側、庭があったり、丁寧に使われてきた古い家具があったりと、いなかのおばあちゃんの家のような雰囲気ですね。空き家になっていた期間が半年くらいで、状態も良かったので、ほぼ借りたときのままです。できるだけ元の色を消さないようと思っています。

— なぜ秋田の大曲で始められようと思ったのですか。

青柳:よく知られているように、大曲の花火といえば、日本三大花火のひとつです。多い年は、人口8万人の街に、80万人が訪れるほどです。

しかし一方で秋田県は、日本で一番少子高齢化が進んでいて、人口も減っています。しかしこのままでは、地域の力が落ちていき、大曲の花火と言えども、いつかは開催できなくなってしまうかもしれないと思ったんです。

— 花火大会を続けるには地元の力が必要だと考えられたんですね。

青柳:はい。実は、好きな花火大会は日本中にあるので、他にもいくつかのまちを比較検討しました。その上で、自分たちが持つITや観光に対する知識や経験が最も重宝されるのはここだと感じたことが決め手となって、大曲にしました。

それに、もともと東京で暮らしていたんですが、結婚し、子どもができたことで、もっとゆったりしたところで暮らそうという気持ちもありました。

— 地域を支えるという点での工夫などはありますか。

青柳:ホテルと競合しないようにということは考えています。営業日数も少なくしていますし、安いから泊まるという方ではなくて、ここを面白がってきてくださる方に向けて、こじんまりとやっています。

ホテルもいっぱいになってしまうようなハイシーズンは、一人でも多くの方に泊まっていただき、大曲を楽しんでもらえるように積極的に営業しています。

地域の観光を補完するような役割だと思っています。

副業としての民泊のホスト。収入の分散化が安定の秘訣

秋田ならではの景色も魅力

— 民泊をはじめることへのハードルなどはなかったのですか。

青柳:準備で役場に何度も相談に行ったり、必要なものを買いまわったりと、足は使いましたが、それも楽しかったです。収入面の不安はあまりありませんでした。東京にいたころ、まわりに民泊をやっている方々がいて、その人たちを見ていると、本業があったり副業があったりと、仕事を掛け持っている方が多かったんです。

複数の仕事をしながら、収入を分散することで、安定できるんだなと思い、秋田にくるタイミングで起業しました。今は民泊、IT、観光業のしごとをしています。

— 生活の変化を感じられますか。

青柳:大曲に来て生活が変わったと思いますね。所得は減りましたが、生活はせかせかしなくなったなと思います。ここは、庭付きで家も広いんですが、東京でこういう環境はなかなかないですしね。

遊休不動産の有効活用としての民泊の可能性

ゲストと共に秋田の郷土料理を囲むことも。

— 民泊のホストというのはどのような方に向いていると思いますか。

青柳:柔軟に受け入れられる人ではないかと思います。文化の違いもある中で、こちらのルールは絶対にこれですと言うよりも、相手に合わせて柔軟にルールが変えられるような人でしょうか。

— やりがいなどはどのあたりにありますか。

青柳:私たちは旅行好きなんですが、毎日旅行に行くわけにはいかない。でも、旅人に来てもらうことで、自分たちも半分くらい旅行気分を味わうことができています。

同居型なのもあり、訪れる方も交流したいと考える方が多いので楽しいですね。

— 今後の民泊市場はどのようになっていくと思いますか。

青柳:こちらでは、仏壇を置いておくために空き家を維持しているという話を聞くことがあります。仏壇があっても民泊に利用できるという認識が広がれば、地方で不在型の民泊が増えていくかもしれませんね。

※大曲の花火の様子:写真提供:大仙市